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本を売るだけの時代は終わった。本づくりに挑む書店、出版不況への反撃:青山ブックセンター本店

青山ブックセンター本店(ABC)店長の山下優さん

 「本屋で店長になって、本屋で出版して、本屋でロゴを変える人生になるなんて、1ミリも一瞬も想像していなかった」

 東京・表参道にある青山ブックセンター本店(ABC)店長の山下優さんは、Twitterにそう綴る。

 洋雑誌やデザイン書が昔から有名だが、近年はSNSの活用法だけでなく、本屋が本を作り、ロゴを刷新、動画を配信するなど、新たな挑戦がつづく。

 2010年代の「出版不況」を見つめてきた山下さんは、本とどう向き合っているのか。人生を変えた一冊、そしていま読みたい人文書の紹介とともに話を聞いた。

気づいたら一周してしまう本屋

 渋谷駅と表参道駅のほぼ中間地点、レストランやオフィスが入るビルのエスカレーターを降りて店に入ると、入り口の左側が洋雑誌、右側にABCの選書が並ぶ。左手の雑誌コーナーを進むと、絵本の棚にたどり着く。奥にはインテリアやデザイン、右奥には充実の写真集コーナーがある。インディペンデントな雑誌も並ぶ。気づけば一周して、出会った本を抱えている。

 「このぐらいの大きさで、ワンフロアで回れる書店は意外とないですよね。今後、本屋が残っていくには、お客さんにとって、『買うつもりがなかった本も買う』という体験は大きい。1冊指名買いするのであれば、正直ネット書店の方が便利なので、プラスアルファを提案できたらなっていうのは意識しています」

 青山通り沿いにある、駅から近くはない書店に、感度の高いお客さんが「わざわざ」足を運ぶ。そんなABCの棚づくりは、何を意識しているのだろうか。

 「『売れていく棚で対話していく』というのが一番大きい感覚ですね。各ジャンルに担当者がいるので、その個性と、お客さんのニーズが混じり合うのが面白い。うちの主張が100っていうよりも、お客さんが買うか買わないかが大事なことなので、そのバランスのせめぎ合いですね」

 「いわゆる売れているタイトルもしっかり揃える。でも売れないからその本が悪かというと、別にそうではない。それが棚にあることで安心するお客様もいる。大事な本もあるので、1年2年売れてない本を抜くのは、あまりやってないんですよ」

「出版不況」しか知らない書店員の反撃

 もともと音楽やファションが好きで、雑誌の編集者になりたいと思っていた山下さん。洋雑誌に関わりたいと、2010年に青山ブックセンター本店でアルバイトを始めた。当時の時給は791円。人生初の時給1000円以下の仕事で、当初は「さすがに食っていけない」と、他のアルバイトとかけもちしていたという。

 人生の転機は、2011年3月に起きた東日本大震災。

 「311があって本当にこのままでいいのかと。お金は入ってくるけど、仕事で何も残せていないと思って、青山ブックセンターで本腰を入れてやってみたいと思ったのが始まりです。イベントもたくさん企画していたので、社員だと思われていたんですけど、2018年11月に店長になるまでは、ずっとアルバイトでしたね」

 山下さんは、既存の出版流通の仕組みに感じる「なんでこうなんだろう?」に、正直に向き合ってきた。そして明確に理由がないものは柔軟に変えてきた。入社当時は低かった書店の「配本ランク」も10年かけて上げてきた。

 ABCは毎月1日に、月間の売り上げの増減をTwitterで公表している。約4万5000人のフォロワーがその経営状況を見守っている。

 数字の公表は、「出版不況」しか知らない山下さんの反撃でもある。

 「どんなメディアでも出版の記事には、200%『出版不況』って枕詞が入っていて。問題はいろいろあったはずなのに、『出版不況』といっておけばいい、みたいな感じがすごくイヤで。ちょうど(ABCの売上が)前年比で上がり始めていたので、書店も頑張っていることを伝えたかったんです。あまりに伝わっていないと思ったから」

 1986年生まれの山下さんは、出版業界の古き良き時代を知らない。ABCも経営難を経て、2008年から古書販売のブックオフ傘下に入った。2018年には1号店の六本木店が閉店、Twitter上に「いい書店はどんどんなくなって残念」「昔よく行ってた」といった声があふれた。

 その反響を、山下さんは、「“現在進行形”のツイートが全然見られなかった」と静かに振り返る。

 「これは自分たちの問題でもあって、書店の現状とかを、全然伝え切れていないんじゃないか。飲食店もそうですけど、いきなり潰れることを知って、閉店間際だけ人が並ぶことにすごく違和感がある。(来店者数を)ならしていけば、もしかしたら続けられたお店もあるかもしれない。自分たちで発信していくのは大事だなと」

山下さんが写真集刊行に寄せた「発酵するABC」には書店の現実に対する疑問と問いが詰まっていた。

本屋が本をつくった理由

 今年2月には、発酵デザイナー小倉ヒラクさんの写真集『発酵する日本』を刊行した。きっかけは小倉さんの「本屋さんが本をつくれば良いのではないか?」という言葉。山下さんは「道が開けた」と感じたという。

 書店が、出版社の書籍を売った粗利は20%前後。仮に1000円の本を売ると粗利は200円ほどだ。自分たちが本をつくれば利益率は変えられる。

 「粗利が少ないのは分かりきっているビジネスですけど、粗利率を変えられるわけじゃない。もちろん改善はしていくんですけど、どうにもならないんであれば、新しいことをしなきゃいけない。そう思っていたときに、ヒラクさんに本の出版を提案してもらって、そういう手があったか、盲点だったなと」

 『発酵する日本』の装丁にはISBNやブックカバーがない。ABCだけで売る本だから、流通させないから、つける必要がないのだ。

 「(出版の流通は)素晴らしいシステムだと思うんですけど、基本的に本はどこでも同じ値段で買えます。そのなかで、お店にしかないものは魅力的。この写真集も、もし大手の出版社だったら、企画が通ったとしても全然違う感じだったはず。そうではなくて書店ならでは、というか当店ならではの本に、こだわれるところはこだわりたかった」

 新型コロナの影響はあるが、「毎日のように売れてます。しっかり届いている」と山下さんは話す。ABCでしか買えない本に全国から注文が届く。第2弾の企画も進行中だ。

 「自分たちが作った本が、お店に来た人に届いていくのは、本当に原点。書店だからできることでもありますよね。もちろん本を届ける難しさもあります。でも喜びもすごく大きい」

 今年2月には、ABCのロゴとレジ袋を刷新した。

 6月には、オンラインで「青山ブックカーニバル」を開催。そこにはアパレルやタオル、石鹸など、書店や出版の枠を超え、各業界で挑戦する12の企業が集まった。

 山下さんは「わざわざジャンルを分ける必要はないんじゃないか」と呟いた。

 「もちろん書店だから本を届ける、良い棚を作るのは大前提で、プラス何をやっていけるか。読むのも生活の延長線上ですし、本読むときも服は着るだろうし、ご飯は食べるだろうし、全部つながっていく。こういう場があるので、そういう提案ができたらなって思いますね」

本は「自分」を知る装置

 そんな山下さんに、人生を変えた本を聞くと、赤瀬川原平『千利休 無言の前衛』(岩波新書)を挙げた。

 本との出会いは、著者による「選書フェア」。『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)を刊行した坂口恭平さんが、フェアの企画のためにこの新書を選んだのだという。

 「最後の方に『利久の美意識の中には偶然という要素が大きくはいり込んでいる』っていう一文があったんです。赤瀬川さんはそこに『無意識を楽しむという項目を付け加えたい』と書いてあって、後から改めて読んで、書店という場所は、無意識を意識化できる場所だと気づいたんです」

 「書店で、『偶然の出会い』とか無意識で使っていた言葉が、この本にも書かれていた。インターネットも便利だと思いつつも、検索ワードは自分で入れなきゃ何も返ってこない。それだけじゃないっていうのを気づかせてもらった本です。美意識とか考え方に影響を受けていますね」

 そして、自分と向き合える人文書として挙げたのが、今年2月に刊行された『未来のルーシー』(青土社)だ。人類学者の中沢新一さんと、霊長類学・人類学者で京大総長の山際寿一さんの対談本だ。

 「何かにめちゃくちゃ詳しくなる読み方を自分はあまりしていなくて、読んでいる時に自分が考えていることと連鎖する本が好きで、この本はその項目がすごく多かったですね」

 新型コロナの影響が広がっていたとき、山下さんは「正直、本は読めなかった」と明かす。それでも、「脱人間主義」を掲げる知の巨人たちの対談は心地よく刺さった。

 「本当に幅広いテーマを扱っていて、それが全部リンクして、2人が行き来しながら急にいろんなところに広がる。自分の感覚に触れられて、世界を広げてもらえて、これについて知りたいなと思える。そういう本が好きだなって。だからここに出てくる本も、すごく気になるし、個人的にはそういう読書が一番楽しいんですね」

書店でAmazonレビューを見るよりも

 一方、「いま読むべき本、その答えは自分にあると思う」と本音も明かす。

 「店頭で、目の前に本があるのにAmazonレビューをスマホで見てるのは、外したくない、損をしたくない気持ちがすごく強いんだろうなって思う。その感覚もわかるんですけど、例えばレビューが星5個でも、それは他人がつけた星。星1つでも自分にとってはめちゃくちゃいい本かもしれない。面白い、面白くないは、自分が決めればいい」

 「本は自分で選んだ方がいろんな扉が開くし、世界が広がるんじゃないかな。みんな自分の『好き』を否定されるのを恐れすぎですよね。自分も学生のときにバイトして、洋服とか音楽とかにつぎ込んで、別に無駄遣いを推奨してるわけじゃないけど、でもそうじゃないと本当に欲しいもの、好きなものには出会えないんじゃないかな」

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