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他者と共生する社会をつくるために――「人の移動とエスニシティ」をめぐる多角的な視点

記事:明石書店

『人の移動とエスニシティ――越境する他者と共生する社会に向けて』(明石書店)
『人の移動とエスニシティ――越境する他者と共生する社会に向けて』(明石書店)

学際的なアプローチで共生社会を考える

 他者と共生する社会をつくるために欠かせない一つの要素は、多様な視角の存在を理解することである。互いの考えを一致させることは不可能であっても、異なる意見の背後に何があるのかを考える必要はあるだろう。自分にはみえていないものが他者にはみえているかもしれないし、自分が経験していない出来事が、他者の考えを生み出しているかもしれない。このことは、国籍や民族という違いがなくてもありうることで、たとえば、世代や性的指向なども考え方や行動の違いをもたらす。それでも、やはり、人と人を隔てるものとして、国境ほど高い壁はないであろうし、それを越えてきた他者との共生は、今を生きる私たちが取り組むべき重要な課題だ。その課題に向き合うために、一冊の本として複数の視角を提供しようと試みたのが本書である。

法学・社会学・教育学・歴史学・文学・演劇・DNA人類学といった多岐にわたる学問領域が重層的に響き合う。
法学・社会学・教育学・歴史学・文学・演劇・DNA人類学といった多岐にわたる学問領域が重層的に響き合う。

 本書の特色は、国境を越えた人の移動とエスニシティの問題に対して、異なる学問分野の専門家が、それぞれの知見からアプローチを試みた学際的な書であることだ。人と同じように、学問も境界を越えることは容易ではない。それぞれの学問が専門化していき、研究者は自分の専門領域の中で評価され、生きている。近年では、研究には、しばしば即効的な成果が求められるようになり、多くの研究者は、その意思に反して、自分の領域を越えてまわりを見渡す余裕をなかなかもてなくなっている。そのことは、大学で学ぶような若い人たちにも少なからず影響を与えているかもしれない。

 しかし、多角的に考えるべき問題は多くあるだろう。国境を越えた人の移動の問題もその一つである。この本を手に取ってくれたみなさんには、必ずしも自分が求めていたわけではない学問分野の話にも触れてみてほしい。複数の視角を知っておくことは、情報の偏りが生み出す弊害の予防策ともなるだろう。一冊の本が運んでくる偶然で半強制的な出会いも、いつか何かの役に立つかもしれない。

 なお、本書は、中央大学文学部で2020年度に開講されたプロジェクト科目がもととなっている。大学の教養教育を想定した入門書であるが、同時に、各専門分野ですでに学習や研究、活動をされている方たちにとっての他分野への誘いの書ともなればと、ささやかに願っている。

〈目次〉

第1 部 国家と移民、エスニシティ
1 人の移動とマイノリティに関する国際法【中坂恵美子】
2 移動民の側から世界をみる
―「周辺」 としていた土地や人を理解するためのフィールドワーク―【新原道信】

第2 部 世界の移民とエスニシティ
3 フランスの移民と教育課題【池田賢市】
4 ドイツ史のなかの人の移動 ―「難民」がつなぐ歴史と現在―【川喜田敦子】
5 人の移動がつくったアメリカ合衆国 ―人種とジェンダーの視点から―【松本悠子】
6 変容する「中国」の多様性と複雑性【及川淳子】
Column 中国雲南のムスリム―共生の作法― 【首藤明和】
Column 多様性と複雑さのなかの東南アジア 【高橋宏明】
7 イスラーム圏とエスニシティ【松田俊道】
Column アフリカ大陸―今日も人々は国境を越える― 【片柳真理】

第3 部 日本の歴史と現在
8 DNA からみた人の移動 ―日本人はどこから来たか―【篠田謙一】
9 日本からの海外移住の歴史【中坂恵美子】
Column 南洋群島の移民と文学―石川達三・中島敦― 【山下真史】
10 在日コリアンの歴史と今【大田美和】
Column 「日本」という国家の創造と「国史」 【宮間純一】
11 日本の入管法と諸問題【杉田昌平】
Column 社会的カテゴリーとアイデンティティ―日系人の実態― 【小嶋 茂】

第4 部 現代社会にどう向かい合うか
12 都市・演劇・移動【高山 明】
Column 「お買い物」で知る移民の文化
      ―ブルックリン子ども博物館のプログラム― 【横山佐紀】
13 多文化共生のための教育―多様性の尊重と社会正義の実現にむけて―【森茂岳雄】

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