離婚・再婚が特別なことではなくなった時代に
記事:明石書店
記事:明石書店
現代では、離婚・再婚がもはや特別なことではなくなっています。子どもの学級の中には父母の離婚や再婚を経験している児童・生徒がいて当たり前の時代となっているといえます。
このような離婚・再婚の家族の在り方を私たちはどのように考えればよいのでしょうか。教師は子どもたちにどのような配慮をすればよいのでしょうか。親は子どもに離婚や再婚をどのように説明すればよいのでしょうか。そもそも当事者が離婚や再婚の際に考えなければならない課題とはいったい何なのでしょうか。
本書を構想することになったきっかけはまさにこのような素朴な疑問でした。
──離婚や再婚を考える当事者にはどんな具体的な課題があるのでしょうか?
離婚や再婚を考える当事者にとって具体的な問題は、例えば経済的な問題、別居中の生活費、養育費、そのほか、親権者を決めること、一緒に住めない親と子どもの関係などさまざまです。さらに配偶者・パートナーが外国人の場合、離婚や子どもとの関係はどのように考えるべきか。再婚する場合、子どもと家族の問題をどう考えればよいのか。当事者は、検討しなければならない問題が山積していることに気が付きます。
──本書を世に出そうとした主たる眼目・ねらいは何でしょうか?
本書を出版しようとした最初の動機は、当事者のこのような疑問にわかりやすく答えられる本を作ろうという思いから出発したのですが、私にはだんだん欲が出てきました。当事者から、学生はもとより、弁護士、臨床心理士、社会福祉士のような専門家にまで役に立つ知識を網羅できないかという、いささか度の過ぎた野望です。そして、出来上がったのが本書なのです。
──つまり、当事者だけでなく、弁護士、臨床心理士、社会福祉士のような専門家にも役立つ本を作ろうとしたのですね。
はい、そうです。離婚・再婚家族と子どもについての基本的な考え方、これは法的・制度的なものから、心理的なもの、社会学的もの、社会福祉的な内容までとり揃え、さらにQ&Aで、かゆいところに手が届くような平易な記述で対応しました。Q&Aというと、いかにも当事者や初心者向けという感じがしますが、それだけではなく、本書は、専門家、実務家にとっても知りたいことを、このQ&Aに用意しているのが、特徴となっています。
──幅広い層の読者に向けて書かれているということですね。
その通りです。しかし、とにかくわかりやすく書くことに努めました。
第1章では、離婚・再婚を考えるにあたり、最低限知らなければならない最も基本的な事項が説明されます。「結婚とは何か」「別居の際に生じる課題」「離婚とは何か」など、さらにここでは、別居に関わる生活費や財産分与、養育費、子どもとの面会交流の問題も含めて解説されています。
──離婚の前の別居についても、生活費のことなど、基本的なことを知らなければ、別居に踏み切ることはできないですね。離婚に至るにはどのような手順を踏むのかも当事者にとっては絶対に知らないといけないことですね。日本は当事者だけで離婚ができる、協議離婚の制度がありますが、これは世界的にみると珍しい制度だそうですね。
そうなんです。司法や行政がかかわらずに当事者だけの気持ちや考えで、つまり届け出だけで離婚できる国というのはそう多くはないのですよ。それだけに養育費のことや(子どもと非親権者の)面会交流で、深い問題を残すことになったりもするのです。
さて、第2章では、この領域の心理学と家族社会学、社会制度について記載しました。第1節「家族を理解するための心理学理論」では、基本から最先端の知識まで、豊富な内容を用意しました。精神分析からユング心理学、認知行動療法、家族療法、ナラティヴ・セラピー、ブリーフセラピー、メンタライゼーション、トラウマインフォムドケア、アタッチメント、精神疾患の基礎知識、家族関係図(ジェノグラム)の描き方まで、執筆されています。このような最先端の知識までを包含した臨床心理のエッセンスを備えた類書が他にあるでしょうか。
──臨床心理学や心理療法、カウンセリングを勉強したい学生や初学者にも最適ですね。
その通りです。エッセンスをわかりやすく説明することに徹しました。
第2節は、「離婚と再婚を理解するための家族社会学」です。この領域の第一人者が近現代日本における離婚と再婚の推移や、離婚・再婚と子どもについて、深く掘り下げて問題を追究しています。とりわけ「ステップファミリー」についての論考は執筆者快心の白眉だと思います。父母の一方が子どもと一緒に再婚家族をつくったり、再婚した夫婦に新たに子どもができたりした場合など、夫婦は、前婚と切り離して再婚家族を考えたほうが良いのか。つまり全く新しい家族を作り上げようとするほうが良いのか。子どもと離れ離れになっている実の親とつながりを持ち続けたほうが良いのか。悩むところですね。こういう問題にズバッと切り込んでいます。
──再婚後の家族と前婚の家族をどう考えるかというのは、当事者にとって悩ましい問題ですね。
養育費や面会交流の問題は避けて通ることはできません。第3節は、離婚・再婚をめぐる社会制度です。生活保護、シェルター、社会的養護(児童養護施設や里親)等、この領域で知らなければならない制度についての記載を満載しました。
第2章は、離婚・再婚家族と子どもを理解するための理論と制度を記載しています。この領域は法制度と心理、福祉が重なり合う、まさにスクランブル交差点の領域です。この章は、家族に関わるカウンセラーや福祉の実務家にとって知らなければならない専門知識の宝庫といえます。また、専門家である弁護士にしても、この領域の心理や福祉は興味が尽きないところでしょう。専門家にお読みいただいても十分、手ごたえのある内容となっています。また、離婚・再婚家族と子どもについて、関心を持っている学生・初学者にも理解できるように、基礎となる理論等は、とにかくわかりやすく記述するように努めました。
──このような本は他にはないですね。
はい、これも本書の重要なポイントの一つです。第3章は、Q&Aです。この「離婚・再婚家庭と子どもを知るためのQ&A」では、まず離婚・再婚を考える一般当事者に対して、考えなければいけない問題点を明確に示し、平易な文章で、具体的に解説することに徹しました。法律・制度からその心理や福祉に至るまで、懇切丁寧に説明することを心がけました。離婚・再婚を考える当事者にとって、これらを知っていれば多少とも安心できる。そういう内容を網羅したつもりです。
また、本書はそれだけではありません。ADRやゲートキーピング理論など専門家が知らなければならない項目や配偶者・パートナーが外国人の場合も考慮して、ハーグ条約についての記述も用意しました。ここまで周到に解説する類書はないと断言できます。豊富なQ&Aは、第1節「結婚生活の危機」、第2節「DVと離婚」、第3節「離婚」、第4節「養育費と面会交流」、第5節「国際離婚」、第6節「ステップファミリー」、第7節「里親と児童養護施設」に分類して示しました。全部で35個のQ&Aになります。執筆者は弁護士、実務家、家庭裁判所調査官、法学者、心理学者、家族社会学者、至れり尽くせりの執筆陣だと考えています。
本書が想定する読者層は、一般当事者から学生、実務家、専門家(弁護士、臨床心理士、社会福祉士、精神福祉士、教師、保育士)まで、広範囲に及んでいます。これらの読者すべての方にお役に立つ内容になったと自負しています。ぜひ、多くの人に読んでいただきたいと切望しています。