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お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで

記事:平凡社

日本ワインの消費量は、国内ワインの市場全体ではまだ5パーセント程度であるが着実に伸びている。
日本ワインの消費量は、国内ワインの市場全体ではまだ5パーセント程度であるが着実に伸びている。

2022年8月16日発売、平凡社新書『お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで』(都留康著)
2022年8月16日発売、平凡社新書『お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで』(都留康著)

生産と消費の現場からお酒のこれからを考える

 人はなぜお酒を飲むのだろうか。仲間とのコミュニケーションの手段と考える人もいれば、ストレスの発散、お祝い事、さらには、こだわりの銘酒をじっくりと楽しみたい人もいるだろう。

 では、人はどこでお酒を飲むのだろうか。自宅で晩酌する人もいれば、居酒屋やバーなど外で飲むのが好きな人もいるだろう。

 近年、日本のお酒を取り巻く生産の現場では、新規参入者による新たな挑戦がはじまっている。また消費の場でも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による居酒屋の淘汰や、それによる家飲み需要の高まり、ノンアルコール飲料を含む酒類の選択肢が広がりをみせている。しかし、その動きは意外と知られていないのではないか。

 本書では、その動きに光を当てたいと思う。以下、本文の内容を簡潔に示す。

 生産については、新たな挑戦が生まれている日本酒、日本ワイン、梅酒、クラフトジンの現場を、消費については家飲み、居酒屋、醸造所・蒸留所が併設された飲食店に焦点を当てる。そして、最後にノンアルコール市場の拡大の意味を考えてみたい。

 まず、日本酒を取り上げる。

 日本酒は伝統ある「國酒」であり、近年では輸出も急増している(国税庁課税部酒税課・輸出促進室2022)。

 その一方で、酒類の中では最も厳しい参入規制(新規製造免許の不発行)があり、国内消費も事業者数も減少の一途をたどっている。通常の衰退産業なら、ここに新規参入する企業はいないはずである。しかし、日本酒の場合、その参入規制を何とか乗り越えて新規参入する企業もわずかながら存在する。その参入の理由を探り、規制緩和に向けた政策提言を行う。

 日本ワイン(国産ブドウのみを原料とし国内で製造された果実酒)の消費量は、国内ワインの市場全体ではまだ5パーセント程度であるが着実に伸びている。日本酒とは異なり新規参入が容易で、実際、国内のワイナリーの数は急増している。また、甲州など日本固有のブドウ品種だけではなく、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの欧州品種のブドウを使う、国内でのワイン造りも行われている。これは日本産ウイスキーと似た動きであり注目に値するだろう。

 梅酒は、日本の代表的なリキュールである。元来は家庭でつくられるもので商品として販売はされていなかったが、1970年代に核家族化の進行に伴って市場化された。そして近年、輸出も盛んになる。存在しなかった市場から、市場を生み出し拡大するまでの進化のプロセスを解明する。

 ジンは、日本でも長い製造の歴史はあるが、クラフトジンが現れたのは最近のことである。世界のクラフトジン市場の中で、欧米とは異なる日本的な素材や製法を工夫するかが勝負であり、今、日本のクラフトジンは躍進を遂げている。国内消費も輸出も急速に伸びている。この要因を探る。

 次に、消費の動向を眺めたい。

 家飲み(宅飲み)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って流行語となった。だが、コロナ禍以前から、自宅で特別な理由もなく、ほぼ毎日のようにお酒を飲む習慣があるのは、実は、世界の中でも日本くらいである。ではなぜ、この習慣が生まれたのか。そして、どのように発展してきたのか、さらにそれは酒類メーカーの行動にいかなる影響を与えたのかを考える。

 家飲みと同様に、世界的にみて珍しいのが日本の居酒屋である。海外では飲む場所(パブやバル)と食べる場所(レストラン)とは明確に区別されている。しかし、日本の居酒屋では、それが誕生した江戸時代以降、飲食が渾然一体である。

 さらに第2次世界大戦後の居酒屋チェーンの発展とともに、お酒も料理も、和洋ともに提供されるようになった。だが、2000年代に入ると居酒屋チェーンは行き詰まりをみせはじめ、その打開策として、お酒も料理もその範囲を狭くした専門店化の動きが現れた。専門店化は本当の打開策なのかを考える。

 消費の新たな動向として、醸造所・蒸留所が併設された飲食店が注目される。その場で醸されたお酒を、その場で調理した料理とともに楽しむという「地産地消」型の飲食店である。最も多いのはクラフトビールであるが、最近では、日本酒やウイスキーなどの製造施設を併設した飲食店も現れている。これは従来の居酒屋と差別化する動きであり、その意義はとても大きい。

 ノンアルコール飲料の現場では、ノンアルコールビールや微アルコールビールが登場してきている。このこと自体は選択肢の拡大として歓迎すべきことだが、そもそもお酒を飲まない人が増えれば、緑茶やウーロン茶を飲めば済むことであり、お酒の代用品としてのノンアルコール飲料の拡大には限界がある。このため、料理とのペアリングを考えたノンアルコール飲料の製品開発が求められている。

 お酒といえば、ビールや焼酎を思い浮かべる人もいると思うが、本書では触れなかった。
ビール業界では、2020年10月に実施されたビールの増税と新ジャンル(第3のビール)の減税前の2010~19年の平均で、①ビール(構成比約50パーセント)、②新ジャンル(約36パーセント)、③発泡酒(約14パーセント)という状況であった(醸造産業新聞社2022)。

 また、アサヒとキリンが熾烈なシェア争いを繰り広げてきた。これが大きな構図である。

 ビール業界では、増減税や新型コロナ禍の影響で構図に一部変動はあったものの、この構図を書き換えるほどの大きな変化はなかったといえる。

 焼酎業界では、過去3回のブームがあった。第3次ブームは芋焼酎がメインで、霧島酒造株式会社(宮崎県)が2012年以降、麦焼酎の三和酒類株式会社(大分県)を抜いて首位の座を占め続けている。この構図にも大きな変化はない。

 なお、ビールと焼酎における新たな挑戦を知りたい方は、拙著『お酒の経済学』(中公新書)を参照されたい。

 筆者が、本書を執筆するにあたってこだわったのは、次の2つの方法である。

 ひとつは徹底した現場主義である。取り上げたすべての事例について、現地に赴き聞き取り調査を実施した。もちろん、取材記事や統計資料も併用したが、まずは生の情報を重視した。事例の紹介と分析に多くのページが割かれているのは、このためである。

 もうひとつは、経済学や経営学の観点からの結果の解釈である。これは筆者の専門性のゆえであるが、歴史学や醸造学の視点からの類書が多い中で、本書の特色となっていよう。

(都留康著『お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで』より「はじめに」を抜粋)

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