『14歳からのSDGs――あなたが創る未来の地球』私たちひとりひとりと、地球規模の課題との「つながり」
記事:明石書店
記事:明石書店
今では知らない人がほとんどいないほど、近ごろよく聞く「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」。2030年までに世界全体で達成することを掲げて、国連が提唱した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)のことです。学校の宿題にもなっていたりして、子どものほうがよく知っていると感じる人も少なくないのではないでしょうか。
SDGsについて説明されるとき、決まって「ふだんの生活でできること」や、「自分ごと化」が必要だとよくいわれるけれど、実際は自分や子どもの生活と世界の問題とのつながりがわかりにくい……。大切だけれど、いまいちうまく説明できない……。そんなふうに思っている大人や、学校の先生は多いのではないかと思います。
本書は、世界や日本のSDGs支援の現場の第一線で働いてきた私たちが、よりわかりやすくSDGsを理解してもらえるよう、日本にいるみなさんと地球規模の課題の「つながり」を意識して書きました。これが本書の一つ目の特徴です。ユニセフ職員や、元職員、またほかの国際機関やNGOなどの第一線で働いている方々によって、日本を含む世界中のSDGs支援の現場でのエピソードが、そこに実際に携わっている人々によって書かれているので、より臨場感が伝わる内容になっていると思います。
たとえば「SDGsフロントランナー」のコーナーでは、子ども世代の社会活動家であるグレタ・トゥーンベリさんやマララ・ユフザイさんだけでなく、著者も登場したり、今も現場の第一線で活躍する方々にも寄稿してもらいました。そして、深く掘り下げて知ってもらいたい問題や活動については、「SDGsよもやま話」のコーナーで読みやすく書かれています。
でも17のゴールのカラフルなロゴは知っているけれど、ひとつひとつのゴールを覚えるのはちょっと多すぎる……と思っている方。少し頭の中が整理できるカテゴリー分けがあるのをご存じですか? 本書の二つ目の特徴は、「SDGsのウェディングケーキモデル」にもとづいて、各ゴールが「環境・生物圏」「社会圏」「経済圏」そして「パートナーシップ」の四つのグループに分けられ、説明されているところです。
今まで経済成長を重視して進んできた先進国がある一方で、環境保全や、教育や保健サービスなどの社会基盤の発展がおろそかになっていたり、格差が広がったりしています。経済発展で生活が豊かになっても、環境や社会基盤が破壊されていれば、地球全体は持続可能ではありません。「誰も取り残さない」ために、すべての成長の土台となるのが「環境」であり、「社会」であり、17ゴールがすべてつながっていることが、この構造によってわかりやすくなると思います。
三つ目の特徴は、SDGsのひとつひとつのゴールを、データを基本に説明していることです。SDGsには17のゴールが具体的に何をめざしているのかは、169のターゲットと指標で明確に定められています。データを理解し、世界の現状やSDGsの進捗度合いを正しく理解することが、目標達成のためにはとても重要です。「SDGsウォッシュ」という言葉がよく聞かれ、流行りに乗っかって何でもかんでもSDGsとつなげる風潮があるかもしれませんが、地球規模のゴールは大きすぎると敬遠せず、定められた指標を知り、自分たちの活動がSDGsのどの指標に貢献しているかを知ることは、効果的な活動を考えたり、本質的な改善をめざすためにとても大事なことです。
数字は苦手、という人もいるかもしれません。でもちょっとがんばって、その数字が表す世界を想像してみてください。たとえば、コロナ禍の今、私たちは以前よりもひんぱんに石けんで手を洗うようになっていますが、石けんで手を洗う設備が存在しない学校は、世界中に何%くらいあると思いますか?
答えは、43%です。そう、そんなにたくさんあるんです。そのほとんどが開発途上国にあります。そんな状況では、子どもたちは新型コロナウィルスだけでなく、多くの病気に簡単に感染してしまいます。
このように、データを読み解くことによって、その深刻さや世界全体の対策の進捗度合いを感じとってもらいたいと思っています。
四つ目の特徴は、そういった地球規模の問題をデータを使って説明しつつ、足元から変えられる行動のヒントを多く掲載しているところです。地球規模の問題を引き起こしている原因が、実は私たちの生活に直結していることもあるかもしれないのです。
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そして世界の問題だけでなく、日本にもはびこる問題や、日本で行われている活動も、つながりを持たせるために毎章ごとに書かれていますし、コラムでは関連する書籍や映画などもたくさん紹介しています。興味を持ったことを日常生活で実行してみたり、映画などを見ながら楽しく知識を深め、その地球規模の課題と日常生活とのリンクを実感してもらえたらと思っています。
長年、発展途上国の人々のために働いてきた私たちには、実は日本人の友人や子どもたちに対して、ふだんの仕事のことや、目にしている問題や異文化のことを話す機会が限られていました。それは「興味がない人に話してもな」と気をつかったりして、私たちが伝えようとする努力を怠っていたからかもしれません。
しかしSDGsは、途上国と先進国の距離を縮め、つながった共通課題としてさまざまな問題や解決策を提示しています。発展途上国も先進国も、みんなで力を合わせて持続的な社会を作ったり、ひとりひとりがポテンシャルを発揮できる社会を作っていくために、垣根なく、それぞれができることを考える。そんな「SDGs時代」になり、私たちが、発展途上国の現状や、地球全体のつながりを伝える責任や、身近な社会をよりよくするためにひとりひとりがすべきことを考える機会が増してきていると実感しています。SDGsができる前から、ずっと援助の世界で働いてきた私たちだからこそ、伝えられることがあり、それをわかりやすく伝えなければならないという使命感を持っています。特に、「SDGs世代」ともいわれる子どもたちに関心を持ってもらいたい。そんな思いを込めてこの本を書きました。
地球という村の住民である私たちは、その地球環境の中で住まわせてもらっています。誰もが生きやすい世の中であるために、ひとりひとりがその責任や影響をしっかりと考えなければなりません。まずは自分の興味を引く分野を見つけ、とりあえず実践してみることがとても重要です。そこからどんどん理解が深まっていくはずです。
No one is too small to make a difference.(子どもでも誰でも、変化を起こすことはできる)
-- グレタ・トゥーンベリ
本書がそのお手伝いをできることを、筆者一同心から願っています。