非暴力のほうが革命は成功する! エリカ・チェノウェスさん(ハーバード大教授)
記事:白水社
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【著者動画:Erica Chenoweth - Civil Resistance and How and Why it Works | Snack Break with Aroop】
多くの事例はニュースの見出しにはならないが、過去10年間──2010年から2020年の間──は記録に残る歴史上のいかなる10年間よりも多く、世界中で革命的非暴力蜂起が発生した。実際、21世紀の最初の20年間で起こった非暴力抵抗キャンペーンの数は、20世紀〔の100年間〕に起こった数よりも多かった。アルメニアからスーダンまで、ベラルーシからインドまで、チリから香港まで、タイからブルキナファソまで、大規模な運動が、世界中で何十もの国の政治状況を根本から変えてきた。
アメリカもこの潮流の中にある。過去10年間、アメリカでは大衆動員が劇的に増加した。ウォール街を占拠せよ運動からユナイテッド・ウィー・ドリームまで、ブラック・ライヴズ・マターからスタンディング・ロックまで、ウィメンズ・マーチから家族は一緒運動まで、#MeToo から結果を守れ運動まで、ブレオナ・テイラーのための正義からジョイ・トゥー・ザ・ポールズまで、民衆の力は、過去10年間のアメリカ政治に前例のないほど影響を及ぼしてきた。
この間──わたしの研究関心によるところもあるが、ほとんどは見過ごせない道徳的危機のため──わたしはよそよそしい市民的抵抗の懐疑者から非暴力運動の力を与えられた参加者に変化した。今日、自分自身の民主主義のため、そして世界中の人権擁護者と連帯しながら、より一層の緊迫感を持って抵抗の歴史や実践を研究している。とくに、最近の運動が抑え込まれるのをみて、世界中で抑圧された人びとが率いた歴史的キャンペーンや、アメリカにおいて現在進行形で正義を訴えるキャンペーンを率いる黒人、先住民やクィアといった人びとが得た教訓を集中的に研究するようになった。反人種主義運動、気候変動運動、LGBTQ+の人びとの権利運動、そしてアメリカの民主主義運動の参加者兼同盟者として、熟練した活動家や組織者から多くの教訓を学んできた。その結果、民衆の力によるキャンペーンが発展し、展開し、そして断固として変革をもたらす方法についての理解が大きく進んだ。こうした教訓は、ひらめきをもたらすこともあれば、注意を促すこともある。よって、本書も、重要性を訴えていると読めるところもあれば、警告していると読めるところもある。
とくに、現れつつあるいくつかのパターンが、社会的、政治的、経済的な正義の獲得に力を注ぐ人びとの悩みの種になっている。第一に、権威主義の興隆が地球規模の波となって押し寄せている。インド、ポーランド、ハンガリー、トルコ、ブラジル、タイ、フィリピンやアメリカといった国々で、過去10年間にわたり、独裁政治への揺り戻しが起こっている。こうした国々、そしてその他多くの国々で、野心的な煽動政治家たちが、周縁化された人びとのための公民権保護を巻き戻したり、取り除いてしまったり、司法の独立を侵害したり、政敵を投獄すると脅したり、ジャーナリストを脅したり、圧迫したり、選挙や投票の過程で大胆に攻撃したり、あるいは国内の敵対相手を武装自警団が攻撃していることに目をつぶったりしてきた。まさにこの権威主義への地滑りが、世界中でこれだけ多くの大衆運動を目覚めさせ、民主主義と基本的権利を守るために人びとを立ち上がらせたのだ。
デジタル権威主義の出現それ自体が、とくに悩みの種になっている。デジタル時代によって、社会的つながりに似たようなものがつくられたが、独裁政治家たちには、政敵と思われる人物たちを監視、コントロール、分裂させる力も与えてしまった。中国、イラン、ロシア、サウジアラビアは、デジタル・ツールを使って敵を黙らせたり、プロパガンダや偽情報を広めたり、敵の勢力の中での分裂や分断を引き起こしてきた。比較的小さな国であるトーゴやバーレーンでも同様に、政権はデジタル監視に依拠しながら市民社会の活動を制限している。
大衆運動の最近のトレンドも悩みの種となっている部分がある。非暴力抵抗は、変化を生み出すための代表的な戦略としていまや世界中どこにでもあるものだが、データによると、過去数十年と比較して、政府は革命的非暴力運動をより頻繁に打ち負かしている。
運動のデータが示すのは次のようなことである。運動の効果の明白な低下は、これらの運動が、デジタル時代に発展し、展開してきた方法の変化にも関連している可能性がある。以下のとおり、特筆すべき4つの重要な変化がある。
もっといえば、市民的抵抗がうまくいくのか、どうすればうまくいくのかについて、悲観的な迷信があり、市民的抵抗が持つさまざまな魅力や効果を損なっている可能性もある。迷信には以下のような考えが含まれている。
このような非暴力に対する迷信や批判にもかかわらず、市民的抵抗というアイデアの時代が、再び訪れた。本書は、市民的抵抗を観察する者、同僚、学生、活動家、友人、ジャーナリストや一般の人びとが、わたしが研究する間に、市民的抵抗について尋ねてくれた問いに直接答えるものである。非暴力抵抗の経験的記録に関する迷信や誤った理解をさらに正していく一助となるよう、そして市民的抵抗の潜在的な力を明らかにするために、利用可能なもっとも説得力のある根拠を総動員しつつ、本書で説明するつもりだ。
(エリカ・チェノウェス『市民的抵抗 非暴力が社会を変える』所収「まえがき」より)