誰一人取り残さないためのコミュニケーション力
記事:明石書店
記事:明石書店
「誰一人取り残さない」は、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)のモットーとしてよく知られています。SDGsは、貧困、健康・福祉、ジェンダー平等、雇用・経済、人や国の不平等の解消、地球温暖化の環境問題など、17の目標を立てた21世紀の人類の目標です。その基本的な指針としては、人権、社会正義を通じて誰一人取り残さない共生社会の構築を目指しています。
さて、『共生社会のアサーション入門――差別を生まないためのコミュニケーション技術』の著者の小林学美さん、挿入画作家の石川貴幸さんは、長年障害平等研修(DET)を実践している方です。障害平等研修(DET)は、障害者を含め全ての人が共生できる社会づくりを目指しています。ですから、障害平等研修(DET)は、SDGs活動の一環として捉えられています。
私たちの社会では、どうしてもマジョリティがマイノリティを差別するという構図ができます。マジョリティはそのやり方を踏襲すると、差別を生む可能性があり、無意識に差別をすることになります。それを避けるためには、マジョリティの方で、気づきを高める必要があります。ですから、差別はマジョリティの問題になります。
例えば、一般の人の場合、階段があれば、高低差があっても、特に問題なく上の階や高いとこに行くことができます。しかし車椅子を利用する人であれば、エレベーターやスロープがなければ上に行くことはできません。この時、何人の一般の人が、体の不自由な人や、車椅子利用者のことを思うでしょうか。彼らにとっては、普通に生活をしているので、車椅子利用者を差別している意識はないでしょう。しかしこのような構図の下では、車椅子利用者は、いつも不自由を押し付けられることになります。この時、車椅子利用者のような不自由な人の存在を知ることが、気づきになります。また、その不自由を解消するためには、環境を整備すること、すなわち、エレベーターや、スロープを設置することが必要だと気づきます。
このように、共生社会では、他の人、すなわちマイノリティのことを思う想像力が大変重要になります。マイノリティには、障害者、女性、高齢者、外国籍の人、LGBTQ+の方など、社会生活の中で、マジョリティが考えられない不自由を抱える人々が含まれます。人々は、差別をしているという気づきがなければ、差別をなくすることはできません。障害平等研修は、マジョリティに気づきを起こさせる機会を与える研修と言えるでしょう。
私たちは誰でも、マジョリティそして、マイノリティになります。例えば、筆者は、車椅子利用の障害者ですのでマイノリティですが、男性ですので、日本ではマジョリティになるでしょう。また、外国に行くとマイノリティになり、文化の違いで、不自由な場面を経験することがあります。このように、誰でもマイノリティなる可能性がありますので、私たちは、普段からマイノリティのことを意識する必要があります。
『共生社会のアサーション入門――差別を生まないためのコミュニケーション技術』では、共生社会を目指して、気づきを起こすために必要なコミュニケーション力を高める方法が数多く紹介されています。特に、アサーティブなコミュニケーションを取り上げていますが、アサーティブとは、しっかりと意志を伝えるとの意味です。日本人は、ハッキリと伝えることが苦手だと言われていて、曖昧に伝えることが多いですが、そのため誤解も多くなります。アサーティブコミュニケーションには、また、しっかりと相手の意志を受け止めて、理解することも必要です。
この本では、アサーティブなコミュニケーションの基礎から、様々な障害のある人々とのコミュニケーションの取り方を紹介しています。特に、対象別コミュニケーションの基本として(p.50〜p.72)、①車椅子利用者、②聴覚障害、③視覚障害、④精神障害、⑤発達障害、⑥認知症、⑦子ども、⑧高齢者、を取り上げて具体的に説明しています。
障害当事者とのコミュニケーションは、障害への偏見や、本人の意思疎通が難しいなどの原因で簡単ではありませんが、小林さんは障害当事者として、障害別の特徴を理解し、丁寧に具体的に説明しています。きっと、読者は障害のある方と自由にコミュニケーションを取る機会が増えてくると期待できます。この本のもう一つの特徴として、素晴らしい挿入画(イラスト)が数多く描かれていることです。これらのイラストによって、さらに、読者の理解が深まると思います。