本当の地方創生を~初代地方創生大臣・石破茂が語る!
記事:平凡社
記事:平凡社
うーーーーん。
そのとき私(石破茂)は、思わず天を仰いでしまいました。
本書執筆に関する取材で、共著者の神山典士氏と話していたときに、こう問われたからです。
――今回2020年から約3年間、かつてないコロナ禍を経験したことで日本人の意識は東京一極集中から地方分散へと大きく変わったのでしょうか? コロナ禍で私たちは何を学んだのでしょうか? 石破さんは23年春の地方選挙で地方を回ってこられて、地方のまちではその変化の手応えは何かありましたか?
そう問われて、どう答えたらいいものか、言葉に詰まってしまったのです。
2020年1月、横浜に停泊する豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号から新型コロナウイルス罹患者が発生し、日本中がパンデミックの恐怖を感じて以降、多くの人々の間で「人口が過密な東京にはいたくない」、「リモートワークができるなら地方に引っ越したい」という「地方分散」の動きが生まれたことは確かでした。
東京都の発表によれば、コロナ禍前には都の人口の対前月比増減数はプラス約3万人程度で推移していましたが、コロナ禍が広がるにつれてこの数字は急降下。20年7月にはマイナスとなり、22年になっても春先を除けばマイナスのままでした。20年と21年には転出者数は約40年ぶりに40万人を超え、転入者-転出者数でも21年は過去最少の5433人へ。23区の特別区では、なんと転出超過を記録したのです。
この数字を見て、東京の過密人口(一極集中)が地方に分散していくきっかけとなるのではないか。この流れを加速できれば、人口急減をはじめとする多くの課題を地方が主体となって解決できるようになるのではないか、と私も思っていました。
ところが2023年1月、政府が新型コロナウイルス感染症の取り扱いを2類相当から5類相当に移行することを発表してから、世の中の空気は一気に「アフターコロナ」に転換しました。私が地方選挙の応援で全国を回った23年の春には、新幹線も飛行機も満席。夜の繁華街もコロナ禍前のような賑わいになったのです。
もちろん経済活動の再開は、歓迎すべきことです。私が議員連盟の会長を務めているエンタテインメントの世界を含め、飲食業や観光業などは、人々の動きが戻るのをどれほど待ち望んだことでしょう。
けれどこの現況において、「コロナ禍で日本人は何を学んだのか?」と問われても、「うーん」と首を傾げてしまいます。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と言いますが、私たちはコロナ禍について「あー、きつい3年間だった」と思うだけで、そこでの経験や教訓などすぐに忘れてしまうのではないか。世の中は地方分散より東京一極集中の流れに戻り、地方創生は振り出しに戻るのではないか――。そう思えてしまうのです。
もちろん大企業を中心に、リモートワークの流れができたことはコロナ禍での大きな変化でした。当時の安倍政権が進めていた「働き方改革」とも相まって、満員電車なしのリモートワークが一気に広まりました。企業によっては、今後は居住制限なし、全国どこに住んでも出社は出張扱いにする、というところも生まれました。「転職なき移住」は一つのムーブメントとなり、栃木県・静岡県・山梨県・茨城県・埼玉県といった「都会から1.5〜2時間圏内」では、これまで以上に移住者や2拠点生活者が増えました。
また全国を見渡せば、コロナ禍というピンチをチャンスととらえて「女性が働きやすいまち」を目指してリモートワークの講習を行ったり、廃校をリノベーションしてサテライトオフィスをつくり、若者に人気のIT企業や広告業等の企業の誘致に成功したところもあります。
このように、地方を活性化する「光明」はいくつもあるのですが、そういう「希望の点」が「線」や「面」にはなっていない。圧倒的多数のいわゆるサラリーマンのみなさんはリモートワークになっても首都圏に居住しており、たとえば東北エリア、中国エリア、四国エリアに住んで東京在住者と同じ働き方をするという人が激増したわけではありません。若者を呼び込むためにさまざまな政策を駆使してがんばっている自治体はいくつもあるけれど、やっていないところは何もやっていない。トータルで見れば、日本全国を変える動きには至っていない。
それが2023年現在の日本の現状だと、私は感じています。
とはいえ、そうであるからこそ、私には見えてきたものもあります。
それは、本書のテーマでもある「地方創生の本質、真髄は何か」ということです。
確かにコロナ禍があり、中央政府も、都道府県や市町村の地方自治体も、その対応で必死になり、教訓として社会のしくみそのものを変えなければならない、ということに気づいた面があると思います。
けれど地方創生の本質は、そんな「上から・中央からの改革」ではできない、ということがかなり明確になったのではないでしょうか。必要なのは、国民一人一人が「我がまち」の未来を真剣に考え、自らつくっていくことです。急激な人口減少と高齢化、中心市街地の衰退、若者の故郷離れといった具体的な問題に対して、中央で一律の政策をつくっても、その解決策は地域によって千差万別なのです。そうであれば、地元の人々が一丸となって「我がまち」の未来に主体的に取り組まなければ、正しい解決策を見出すことはできません。2014年に生まれた「地方創生」の取り組みが、19年に第二期を迎え、コロナ禍を経たいま、いくつもの「希望の点」を、私たち自身がどう「線」にし、「面」にしていくのか。「我がまち」の「本気度」が改めて問われているのです。
そしてそれこそが、コロナ禍を経た私たちが学んだ最大の経験なのだと、私には思えるのです。
(中略)
本書には、全国各地で「希望の点」となっている多種多様な主人公(プレイヤー)が登場します。その活動に対して私が感じたこと、日頃考えていることも書き添えました。
「我がまち」が「本気」になるためには、このようなプレイヤーが全国各地に多数登場すること。そして地域に住む多くの人々が志を同じくして行動することが不可欠です。
本書の読者のみなさんには、ぜひ「我がまち」を愛し、誇りに思っていただきたい。「私にも、我がまちにもできる」と思っていただき、立ち上がっていただきたい。
希望の点が線となり面となるように。「我がまち」が本気になるように。
本書が多くの人々の希望の書になることを祈っています。
プロローグ――アフターコロナで見えてきたもの
第一章 「Will」と「Can」を持つシニア世代の活躍
第二章 地方のシンボルを守れ
第三章 地方の「懐かしい未来」を探せ
第四章 女性プレイヤーの活躍
第五章 異色のプレイヤーたち
第六章 多彩・異能なプレイヤーの登場
エピローグ――アフターコロナの地方創生