1. HOME
  2. コラム
  3. 気になる雑誌を読んでみた
  4. 地方移住者のための情報誌「TURNS」 多様な移住のリアル届ける

地方移住者のための情報誌「TURNS」 多様な移住のリアル届ける

 もう10年以上前になるが、瀬戸内海のある島に移住を考えたことがある。子どもが生まれたので、自然いっぱいの土地で育てようと思ったのだ。市の主催する相談会にも参加して具体的に検討したのだが、結局移住することはなかった。子どもの学校の問題や住まいの条件などが折り合わなかったこともあるけれど、もっと根本的なところで、見知らぬ土地へすべてをなげうって飛び込む勇気がなかったのである。家族の命運を預けるには、リスクが大きすぎると二の足を踏んだ。今なら、もっといろんな選択肢があったんじゃないかと思えるが、当時は1か0かのどちらかの選択しかないと思い込んでいた。

 「TURNS(ターンズ)」は地方移住希望者のための情報誌である。あのときにこれを読んでいれば、自分にちょうどいいスタイルを見つけられたかもしれない。本誌によれば、一口に地方移住といっても、その内容は多様であることがわかる。

 最新号の特集では多拠点居住が取り上げられている。現在の住居はキープしながら、地方にも第二の拠点を持つ人がいるようだ。2カ所に住むというのは家賃負担が大きそうなものの、考えてみれば自宅のほかに仕事場を借りているフリーランスの身には、結局同じことかもしれない。誌面には、東京と地方をつなぐビジネスを手がける起業家も多く登場していた。

 面白く読んだのは、月額4万円で敷金・礼金などの初期費用なくして全国各地の物件に自由に住めるサービスの記事。いろんな土地に拠点を移しながら暮らせるのは、移住先探しによさそうである。そのままゲストハウスを渡り歩くような感覚で暮らしている人もいそう。移住するのかしないのか、転職するのかどうなのか、などと堅苦しく考える前に、試せることはいろいろありそうだ。

 前々から言われていたことだが、このたびの新型コロナのおかげでリモートワークの魅力と可能性がよりいっそう取り沙汰されるようになっている。この機会に地方移住という選択肢を真剣に検討しはじめた人もいるだろう。

 そんな甘いもんじゃないぞ。
 と内なる声も聞こえてくるけれど、さまざまなリアルな声を届けてくれる本誌の存在は心強い味方になってくれそうだ。

 私は今でも地方暮らしに憧れているが、すでに子どもは思春期を迎え、むしろ都会のほうに憧れている様子。巣立つまでは移住はお預けかな。人生なかなか思い通りにいかないものである。=朝日新聞2020年6月3日掲載