「熱意あふれる社員」はたったの6%⁉ 日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか?
記事:平凡社
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かつて仕事への熱意や会社への献身ぶりを世界中から称賛された日本の会社員の「やる気」は、今、世界最低水準に沈んでいます。
世論調査や人材コンサルティングを手掛けるアメリカのギャラップ社が世界各国の企業を対象に2017年に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意)調査は、その実態を如実に示しています。
日本企業では「やる気の無い社員」の割合が70%に達し、「熱意あふれる社員」の割合はたった6%に過ぎませんでした。アメリカの32%の5分の1に満たず、調査した139カ国の中で132位と最下位クラスです。
さらに企業内にいろんな問題をまき散らす「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%と全体の4分の1弱にのぼりました。
ギャラップ社が2023年に発表した最新の「グローバル職場環境調査」でも傾向は変わりません。日本で「仕事にやりがいを感じ、熱意を持って生き生きと働いている」(ワークエンゲージメントを感じている)社員の割合はわずか5%に過ぎず、調査した145カ国中、イタリアと並んで最低でした。
ギャラップ社の調査だけではありません。他の企業による同種の調査でも、日本の会社員のやる気の無さは世界で突出しています。
世界39カ国・地域に拠点を持ち、求人・転職サイトを手がける人材サービス企業ランスタッド社が2019年12月に公表した国際比較調査でも、日本人の仕事満足度は世界最低でした。「満足している」割合は最上位であるインド人の89%に対し、日本人は42%に過ぎず、アメリカ人(78%)や中国人(74%)、イギリス人(74%)、ドイツ人(71%)を大きく下回りました。一方で「不満足だ」という日本人の割合は21%と、インド人(3%)、アメリカ人(6%)などを大きく上回りました。
ではなぜ日本の会社員は仕事のやりがい、やる気を失ってしまったのでしょうか?
本書はそれをさまざまな観点から解き明かすことに主眼を置いています。具体例や詳細は各章でかみ砕いて解説しますが、理由は明白です。
家電やパソコン、事務機器メーカーなどの輸出企業の国際競争力低下や、バブル崩壊による消費低迷などの寒風が吹き始めた1990年代半ば以降、少なからぬ日本の大企業はコストダウンを最優先する「縮み経営」へと舵を切りました。この過程で、社員を会社の業績向上に貢献してくれる資産あるいは可能性ではなく、お金のかかるコストだとみなすようになってしまったのです。
コストなら削減しなければなりません。当時の経営者たちは新たな人事制度を導入して中堅以上の社員の人件費を圧縮し、若手を中心に正社員から非正規雇用への転換を進め、教育・研修費を削りました。
さらに事業に振り向ける予算や研究・開発費も減らしました。これに伴って現場の裁量権が縮小されました。新たな事業や製品を生み出す起業家タイプのイノベーターは活躍の場が減り、節約や管理に長けた小役人タイプのコストカッターが重用されるようにもなっていきました。
それらの大企業は下請けなど取引先の中小企業に対しても、納入価格の値下げを要求しました。発注元の大企業にそう言われたら従わざるを得ません。日本企業の99.7%、働く人の約7割を占める中小企業でも、厳しい経営を強いられ、人件費を圧縮せざるを得なくなる企業が増えていきました。
もちろん経営者、管理職にとって無駄の排除は大切な仕事です。とりわけバブル崩壊後の厳しい経営環境ではコストダウンが重要な経営課題だったのは無理もないことでした。しかしそれはあくまで一時的な緊急避難措置であるべきでした。バブル崩壊後の最悪期を脱した段階で、人材や設備、研究・開発への思い切った投資を復活させ、中小企業への値下げ要求を撤回して共存共栄を図るべきでした。
残念ながら少なからぬ大企業はそうしませんでした。バブル崩壊後の最悪期を脱しても、まるで慣性の法則に従うかのように危機対応の「縮み経営」を続けました。
この結果、年を追うごとに会社員の報われない思いが募っていきました。
はじめに
第一章 「安い賃金の国」への転落――なぜ日本企業の賃金は上がらないのか
第二章 「脅しの経営」の弊害――社員を追い詰める減点主義的な処遇
第三章 コストカッターの罪――人材が育たず競争力が損なわれる悪循環
第四章 「無駄な仕事」のまん延と、自主性・成長機会を奪う「マイクロマネジメント」
おわりに