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太田洋「敵対的買収とアクティビスト」 株式会社の本質浮き彫りに

 「敵対的買収」と聞くとショッキングな響きがある。「アクティビスト」も古い世代からは新手の総会屋?乗っ取り屋?と思われるかもしれない。そんな刺激的題名の本書が、ビジネス街の書店で売れているという。こうした事象がいつ自分の身の回りで起きてもおかしくない昨今の状況の反映だろうか。

 著者は、企業が選ぶ弁護士ランキング上位の常連で、この領域で百戦錬磨の人物だ。彼が一般書、それも新書でこのテーマに関する本を出したとき、正直、チャレンジャーだな!と思った。専門性が高く、具体例で分かりやすく説明しようとすると色々な守秘義務の壁がある。しかし本書を手に取ってみて、そんな懸念は吹き飛んだ。

 著者が序盤で示す「敵対的とは、誰が誰に対して敵対的なのか」は、それ自体、株式会社という仕組みの本質に迫る問いである。我が国では、従来、会社を従業員とその延長線上の経営陣の集合体として極端に擬人的に捉える考えが主流だった。そこに20年余り前から「会社は株主の所有物である」と擬物的に捉える勢力が現れ、両者の間でバトルが繰り広げられてきた。

 私自身、企業再生の専門家として、退陣を余儀なくされる経営陣に対し「非友好的買収者」として登場したことがあるし、逆に短期収奪的なアクティビストのTOB(株式公開買い付け)に対し、激しい防衛戦をやったこともある。そこで見えてくるのは、極端な擬人化も擬物化も馴染(なじ)まない、むしろ様々な利害関係者の法律的・有機的関係性という株式会社の実相だった。日本企業の長期停滞の根本原因をその関係性の機能不全と考えたことが、私をコーポレートガバナンス改革に駆り立てた。

 本書は生々しい具体例と日米欧の敵対的買収史を縦糸、法理論的な解説を横糸に、私が多くの経験からたどり着いた株式会社の本質を浮かび上がらせる。経営者、従業員、株主など株式会社に関わる全ての人々にとって格好の教養書と言っていい。=朝日新聞2023年7月29日掲載

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 岩波新書・1100円=4刷2万5千部。5月刊。「物言う株主と経営陣の対決が盛んに報じられる中で類書がなかった」と担当者。