告白は日本特有の文化? 若者の恋愛調査から見えてきた、恋愛をめぐる“暗黙のルール”――『恋愛ってなんだろう?』
記事:平凡社
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――私はしたことがないんだけど、告白って、すごく勇気がいることだよね。友だちが「告白する!」って決心している姿をみると、すごいなあって思う。
相手の気持ちをたしかめることになりますから、とても緊張しますよね。断られたら、関係が変わってしまうかもしれないですし。
――うん。フラれちゃって、友だちのころのように話せなくなったら嫌だし……。でも、告白をしないと付き合えないんでしょ?
付き合うには、告白がマストというわけではありません。実は「告白」を大事にするのは、日本特有の文化なんだそうです。フランスやアメリカなど欧米圏では告白をしないことがほとんどで、はっきりと告白をしなくても自然と恋人関係が始まるケースが多いと聞いたことがあります。デートを重ねるうちにお互いの雰囲気で理解したり、性行動が先にあったり、そうした恋愛のはじまりもあるようです。
――ええ〜、想像できないなあ。私は付き合っていると思っていたのに、相手は思っていなかった、なんて勘違いが起こりそうじゃない?
ありえますよね。どうやってお互いを恋人関係だと認識するのか、アメリカやフランスの人たちに聞いてまわって、実態を調査したいくらいです。
――私も聞いてみたい!
日本で告白を大事にする文化があるのは、規範、つまり恋愛における「暗黙のルール」のようなものがあるからだと思います。告白してOKしてもらったら恋人になれる、恋人になったら手をつないだり、休みの日に会えたりする、といった共通のルールがなんとなくありますよね。
――たしかにそうかも。付き合ったら、いっぱい連絡をとりあって、毎日一緒に帰るとかね。
そして、恋愛において相手と親密な関係になっていくには、ステップ、つまり「恋愛の順序」があると言われています。相手に好意を抱いて付き合いたいと思ったら、告白をして、恋人になって、デートをして、キスをしたり手をつないだり触れ合いができるようになって、性交をする。私が調査をしていた中で感じたのは、日本人はそうした恋愛の順序をきちんと守って、その通りに恋愛を進めていきたいと考えている人が多いということです。なので、「告白」は恋人関係になりたいのなら、絶対に通らなければならない儀式だと考えられているのではないでしょうか。
――うん。付き合いたいと思ったら、まずは告白ってイメージがあるもん。
そうですよね。異性愛にかぎった話をすると、みなさんの祖父母世代は異性どうしの友情関係がいまとくらべて少なかったので、男の子と女の子が毎日一緒にいると、告白をしなくても自然と互いを特別な関係だと感じ、周りからも「付き合っているのかな」と言われることがあったと言います。ですが、男女共学が増え、異性どうしの交流が盛んになってきたことで、男女ふたりでいても特別なものではなくなってきています。
――趣味が合う男の子の友だちと、ときどき一緒に帰るよ。
だからこそ、友情と恋愛を区別するために「告白」をすることが、より重要な意味をもつようになってきました。私がおこなった調査では、友だち関係から恋人になる人が増えているようです。なので「友人モードから恋人モードへの切り替え」のために、「告白」をすることがマストだと考えているようでした。もちろん、告白なしでスタートするパターンもあり得ますが、その場合も交際段階で「私たちの関係って?」と関係を確認する会話がおこなわれるようです。
面白いなと感じたのが、「この人は付き合えるはず」と、ある程度確信している状態で告白をする人がほとんどだったことです。つまり、「当たって砕けろ!」みたいな告白は、実はあまりないんですね。
――絶対私のこと好きじゃん、みたいなこと?
脈アリだとか、「◯◯が好きだって聞いたよ」みたいなうわさ話から、少しずつ確信を深めていくんでしょうね。いまの若い世代にとって、恋愛において「空気を読む能力」がとても重要視されているように感じました。付き合う前から、メールや電話といったやりとりを重ねて、話しかけて相手の反応をみて、付き合う意志がありそうかを確認する。LINEで会話が途切れて、スタンプだけ送られてくるようになったら脈がない、という判断をしている人もいました。
――えっ、スタンプだけって脈なしなんだ……? 空気読むの、めちゃくちゃ難しそう。
私も、難しそうだなあと思いました(笑)。
――友だちとの会話で、「好きな人がいる」って話になると、かならず「告白しなよー」って周りが盛り上げるんだよね。でも、私は付き合っても何をするのかイマイチわからないし、いまもじゅうぶん楽しいから「付き合わないとダメなのかな?」って思う。好きな人ができたら、告白しなきゃいけないのかな?
告白しなきゃいけない、なんてことはないですよ。恋愛に限らず、何事も、自分の気持ちがいちばん大切です。みなさんは、恋人と友だち関係の大きな違いはなんだと思いますか?
――えー、なんだろう。恋人は手をつないだり、友だちよりもいっぱい連絡とったりするとかかな?
もちろん、これも人によって考え方はさまざまですが、一般的によく言われるのは、恋人どうしになったら、キスや手をつなぐなど親密な触れ合いをするようになる、ということです。必ずしも付き合ったら触れ合えるようになるわけではありませんが、こうした行為を求めて恋人になることを望む人もいるでしょう。あとはデートをしたり毎日一緒に登下校したり、ほかの人と異なる特別な関係を望むのなら、告白は関係をはっきりさせるためにいい方法の一つだと思います。でも、ときどき一緒に帰れるだけでも楽しくて、いまの関係に満足しているのなら、無理に告白をする必要はないのかなと思います。もう一度言いますが、みなさんの気持ちがいちばん大切です。
ちなみに、友情と恋愛に関していうと、自分が他者に抱く好意が恋愛感情か友情か判断できない/しない、「クワロマンティック」というセクシュアリティもあります。相手に好意を感じているけれど、それが恋愛感情なのか友情なのか区別がつかない(区別したくない)、恋人になりたいのか親しい人になりたいのかわからない(決めたくない)というものです。
――へえ! なんとなく、友情か恋愛か、はっきりしなきゃいけないのかなって思ってた。でも、そうしたくないって人もいるんだね。つまり……相手との関係をどうしたいのかは、私が納得していれば、それでいいってこと?
そうですね! 付き合いたいかどうかは本人が決めること。恋人どうし=しあわせ、というイメージをもたれがちですが、一対一の恋愛関係になることに負担を感じて、付き合うのがめんどうだと感じる人もいます。付き合うというのは、特別な楽しさもありますが、一方で相手とたくさん話し合ったり考えたりしなきゃいけないですからね。恋人どうしにならなくてもいまの関係に満足していて、付き合ったら関係が壊れてしまうのが怖い、という気持ちもよくわかります。
――そうなんだよね……。大事な友だちがひとり減っちゃうかもって考えちゃう。
あと、ひとりの時間が好きだったり、友だちとわいわいする時間が楽しかったりして、恋人はいなくても満足している人もいますよね。
――その気持ち、すっごくわかる! 私は友だちとの時間もひとりの時間も好きだから、付き合って恋人に自分の時間を奪うばわれちゃうのが嫌だ。いつでも相手に合わせて行動しなきゃいけないのかな、連絡もすぐに返さなきゃいけないのかなと思うと、私も「ちょっとめんどくさい派」なのかも。
恋人と友だちの中間のような「◯◯フレ」が増えているのも、それぞれにとって心地よい関係性を考えた結果かもしれませんね。ただ、時間が経つにつれて、たとえば嫉妬のような気持ちを抱いたり、相手への想いが変わって「付き合いたい」と思うようになったりするかもしれないので、必ずしも「この人は友だち」「この人は恋人」と、ひとつの関係にずっとしばられなくてもいいと思いますよ。
――気がついたら友だちを好きになってたってこと?
友だちどうしの関係性も、変わっていきますからね。そのときどきで、自分が好きな人と「どういう関係になりたいのか」を考えて、自分で納得した答えを出せるといいですね。[後略]
はじめに
第1章 恋愛ってなんだろう?
第2章 恋愛にはルールがあるの?
第3章 恋愛は、私たちの社会とどうかかわっているの?
おわりに
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