1. じんぶん堂TOP
  2. 歴史・社会
  3. 子どもたちの参加権を保障するために何が必要かを問う『主権者教育を始めよう』

子どもたちの参加権を保障するために何が必要かを問う『主権者教育を始めよう』

記事:明石書店

『主権者教育を始めよう』(川原茂雄/山本政俊/池田考司 編著、明石書店)
『主権者教育を始めよう』(川原茂雄/山本政俊/池田考司 編著、明石書店)

上からではなく下からの主権者教育を

 2015年に選挙権年齢が18歳に引き下げられ、にわかに「主権者教育を!」の声が文科省や自民党、メディアなどの各方面から聞えてきました。ブームのように「主権者教育」に関する本が何冊も出版されたりしましたが、あれから日本の学校現場において「主権者教育」への取り組みは広がり、定着していったのでしょうか。

 そもそも「主権者教育」は、上から「やりなさい」と言われてやるものではなく、またブームに乗ってやるものでもありません。日本国憲法と教育基本法に基づいた戦後教育の中で、現場の教師たちが、児童・生徒たちを「平和的で民主的な国家・社会の形成者」としての「主権者」に育てようとして取り組んできたのが「主権者教育」なのです。世界で、そして日本で、いま平和と民主主義が危機的な状況になっています。いまこそ「主権者教育」に私たちはしっかりと取り組むべきではないでしょうか。

 2022年度からは「公共」や「総合的な探究の時間」も始まり、主体的で対話的な深い学びを志向する「学び方の転換」がすすめられる中で、上から言われる、またブームに乗った「主権者教育」ではない、教師と生徒の主体的な取り組みによる「私たちの主権者教育」を始めなければなりません。

理論・実践・提起の3部構成

 本書では、『主権者教育を始めよう』と題して、学校現場での「主権者教育」の実践に広く取り組んでもらうことを目的として、学校の先生方や、これから教師になろうとする学生たちを主たる読者として想定しています。それだけでなく「主権者教育」に興味・関心のある多くの市民の皆さんにも読んでいただきたいと思っています。

 そのために本書では3部構成として、第1部では「主権者教育とは何か(理論・本質篇)」として、「主権者教育」を理論的かつ実践的に考えていき、その本質について、それは上から決めて降ろされるようなものではなく、学校現場での教師の実践と生徒たちとの関わりの中から形成されていくものであることを明らかにしていきます。そして第2部では「主権者教育の授業実践(実篇)」として、実際に学校現場で行われた「主権者教育」の授業実践の取り組みを紹介し、第3部では「主権者教育をやろう(提起篇)」として、「主権者教育」の多様な実践の可能性を明らかにし提起していきたいと思います。

 この本の編著者である川原・山本・池田の3人は、いずれも1980年代から北海道の高校の社会科の教師として授業実践に取り組んできた者です。それぞれ個性が異なる3人ですが、共通して生徒たちを「主権者」として育てていこうとする教育実践に取り組んできました。また3人とも民間教育研究活動や組合の教育研究活動などに関わりながら、お互いの教育実践・研究活動の交流や研鑽につとめてきました。

編著者の川原茂雄氏が高校で行ったコラボ・ライブ授業「弁護士さんに色々と聞いてみる」の模様
編著者の川原茂雄氏が高校で行ったコラボ・ライブ授業「弁護士さんに色々と聞いてみる」の模様

新しい時代の「主権者教育」を創造するための視点

 この本では、3人の「主権者教育」についての論考や実践を中心にしながら、さらに多様な実践や論点を明らかにするために6人の先生方に執筆の協力をお願いしました。ほとんどの先生方が民間教育運動への関わりがあるとともに、北海道在住であるという共通点があります。このことは、他の「主権者本」とはまた違った観点からの独自性と独創性をもたらしていると思います。章立ては以下のようになります。

第1章 主権者教育とは何か  川原 茂雄
第2章 有権者教育から主権者教育へ  池田 考司
第3章 高校・社会科(公民科)における主権者教育  山本 政俊
第4章 中学校・社会科における主権者教育  平井 敦子
第5章 戦後社会科教育と主権者教育  星 瑞希
第6章 残業代を支払って下さい  山本 政俊
第7章 弁護士と教師の対話でつくる憲法の授業  川原 茂雄
第8章 デジタル・シティズンシップ教育の授業  池田 考司
第9章 公民科で日本の政治を教える授業  伊藤 航
第10章 アイヌ民族の格差問題への認識を深める授業  山﨑 辰也
第11章 探究の時間で主権者教育をやろう  米家 直子
第12章 討論授業で主権者教育をやろう  滝口 正樹
第13章 SDGsで主権者教育をやろう  池田 考司
第14章 政治教育で主権者教育をやろう  川原 茂雄
第15章 僕らの主権者教育をやろう  山本 政俊

 戦後日本の教育の中で取り組まれてきた「主権者教育」の遺産を継承しながらも、フィールドワークや対話・討論の授業、SDGs教育、さらにデジタル・シティズンシップ教育など、これからの新しい時代の「主権者教育」を創造するための視点も提起していると思います。是非とも、多くの皆さんに手に取って読んでいただき、「主権者教育」について考え、その実践に取り組んでいただきたいと思っています。

「総合的な探究の時間」で地域社会にまつわる説明看板を作成した高校生の実践から
「総合的な探究の時間」で地域社会にまつわる説明看板を作成した高校生の実践から

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ