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「あの子、かわいいね」……なぜこの言葉にモヤモヤするのだろう!?——西倉実季『ルッキズムってなんだろう?』より

記事:平凡社

写真:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
写真:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

2025年8月7日刊行『中学生の質問箱 ルッキズムってなんだろう? みんなで考える外見のこと』(西倉実季・著、平凡社)
2025年8月7日刊行『中学生の質問箱 ルッキズムってなんだろう? みんなで考える外見のこと』(西倉実季・著、平凡社)

大学入学時のサークル勧誘で経験したこと

 私は、ルッキズムについて研究している社会学者です。これまで、あざや傷あとなど、顔や身体に目立つ特徴がある人たちにインタビュー調査をしたり、ミス・コンテストに対する賛成と反対意見を調べて論文を書いたりしてきました。

 なんだか変わった研究だね。なぜそんなことに関心をもったの? よく質問されることなので、はじめに自己紹介をさせてください。私が外見についての研究をするようになったきっかけは、大学に入学したときに経験したサークル(大学生が自分たちで立ち上げた、課外活動を行う団体)の勧誘です。私が入学した女子大では、近くの共学の大学から男子学生がやって来て、サークルに入会してほしい新入生にチラシ配りをしていました。でも、そのチラシをもらえるのは、外見がきれいな女子学生だけだったのです。

 チラシをもらえなかった私は、別にそういうサークルに入りたい気持ちなどなかったのに、自分はダメな人間なのではないかと思えてしまいました。どうして男子学生たちは、一方的に女子学生の外見をジャッジするのだろう!?

 そんな腹立たしさもありましたが、選ばれなかった自分に対する劣等感がとても大きかったのです。選ばれた外見のきれいな女子学生がうらやましいという気持ちもあったかもしれません。言葉にできないモヤモヤを抱えたまま、大学生活がスタートしました。

自分のモヤモヤを言葉に変えていく

 このモヤモヤの正体が徐々に見えてくるようになったのは、大学で「社会学」や「ジェンダー論」という学問を学んでからのことです(ジェンダーとは社会的・文化的につくられた性別のことです)。社会学は、私たち一人ひとりの苦悩を、社会の仕組みや成り立ちと結びつけて考える学問です。ジェンダー論もまた、私たちが「女」や「男」として経験していることと、より大きな社会との関係を明らかにしようとする学問です。これらを学ぶことを通じて、過去に、私と同じように外見について悩み、深く考えをめぐらせてきた人たちがたくさんいることを知りました。その人たちが必死になって生み出してきた言葉を借りて、自分のモヤモヤを少しずつ言葉に変えることができるようになったのです。そして、その言葉を恐る恐る他の人に伝えてみると、その人も私と似たようなモヤモヤを抱えていることに気がつきました。ようやくここまでたどり着いたとき、外見の問題は、「私の個人的な悩み」ではなく、「みんなに関係している社会の問題」として見えてくるようになりました。

外見についてのモヤモヤをみんなで考える

 私のサークル勧誘の経験について紹介してきましたが、中学生のみなさんもこれまで似たような経験をしたことがあるかもしれませんね。友だちやきょうだいと外見を比較されたり、もっと直接的に外見の悪口を言われたり、あるいは学校で「かわいい子/かっこいい子ランキング」があったりなど、外見についてモヤモヤを抱えている人も少なくないのではないでしょうか。「この本では、みなさんのそんなモヤモヤを私が一気に解決します!」と言いたいところなのですが、残念ながらそれはできません。もし仮にできたとしても、みなさんにとって、あまり意味のあることではないと思います。私との会話を通して、みなさんが自分自身のモヤモヤについて深く考え、何とか言葉にしてみてもらいたい。この本は、そういう思いでつくりました。

 自分にはむずかしそうだと思ったでしょうか? でも心配しないでください。この本のサブタイトルは、「みんなで考える外見のこと」です。外見についてのモヤモヤはとらえどころがなく、自分ひとりで考えていたら、すぐに苦しくなってしまいます。でも、大学生の私がそうだったように、自分と同じようなモヤモヤを抱えている人の言葉をヒントにすることで、みなさんの考えはぐっと前進するはずです。「そうか、そういうことだったんだ!」と納得できることもたくさんあるでしょうし、何より、モヤモヤに向き合う勇気をもらえると思うのです。だから、この本では、私自身のモヤモヤの正体をつかむのに役立った言葉をできるだけたくさん紹介したいと思います。もちろん、私も最後までみなさんに伴走しますので、「ひとりではなく、みんなで」考えていきましょう。

(構成=平凡社編集部)

『ルッキズムってなんだろう?』目次

はじめに
第1章 「ルッキズム」ってどういう意味だろう?  
1 「ルッキズム」は人を見た目で判断すること? 
2 新しい言葉の歴史を振り返ってみる 
3 ルッキズムの何が問題か、二つの考え方がある 
4 学校の「外見校則」について考えてみよう 
5 現実を表す言葉? 便利な言葉? 
第2章 ルッキズムはどうして問題なの?
1 日常のなかにあるルッキズム 
2 その人の発言の何に傷つくのだろう? 
3 美容広告が私たちに伝えるメッセージ 
4 ソーシャルメディアのなかのルッキズム 
5 外見は個人の能力? 変わらない属性? 
6 そもそも「能力」とは何だろう?
7 自分の外見を選択するとは、どういうこと?
第3章 どうすればルッキズムを解消できる?
1 ルッキズム社会を生き抜くには? 
2 個人ではなく、社会に働きかける 
3 習慣や仕組み、法律を変える 
4 ソーシャルメディアや教育のあり方を変える 
5 ボディ・ポジティブや多様性は万能?
おわりに
おすすめの本・マンガ・映画
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