沖縄の基地問題――「何も変わらない」と感じる前に、私たちが知るべきこと
記事:明石書店
記事:明石書店
果てしなく続くフェンスの向こう側に、広大な芝生と見慣れない軍用機が並んでいる。上空を轟音とともに戦闘機がかすめていく。私たちが日常のなかで忘れがちな「安全保障の最前線」の風景だ。
なぜ、沖縄ばかりがこの重い負担を強いられているのか。いつまでこの状況は続くのか。多くの人が同情はするものの、「自分には関係ない」「どうせ何も変わらない」と考えることを放棄してはいないだろうか。しかし、思考を止めてしまえば、現状に苦しむ人々に寄り添う道は閉ざされてしまう。
紛争解決学を専門とする研究者として、沖縄に詳しい研究者やジャーナリストの協力を得て編んだのが『基地問題から沖縄を知るための60章』(明石書店)だ。この複雑に絡み合った「沖縄問題」の輪郭を描き出し、私たち一人ひとりが「自分ごと」として向き合うための手がかりとなることを願って刊行した。
私が初めて「沖縄問題」と深く関わりをもったのは、1996年のことだ。日本の安全保障の専門家たちを引率し、沖縄県内の米軍基地を見学して回った。照りつける太陽の下、フェンス越しに見つめた広大な基地の風景。そして、当時の大田昌秀沖縄県知事から直接伺った、県民の切実な怒りと哀しみ。あの日の記憶は、今でも私の脳裏に鮮明に焼きついている。
それ以来、私は「和解」や「対話」をキーワードに、沖縄の基地問題解決に貢献したいと活動してきた。2001年からは沖縄に拠点を置くシンクタンクに身を置き、翌年にはNPO法人「沖縄平和協力センター」を設立した。米軍と地域住民、日本政府と沖縄県。立場が異なる者の間に立ち、どうすれば争いの芽を摘み、建設的な解決策を模索できるか奔走してきたつもりだ。
しかし、2022年に復帰50周年という大きな節目を越えてもなお、状況は一向に好転していない。むしろ、国民の思考停止という壁が、かつてより強固になっているのではないかという危惧がある。時折ニュースで報じられる事件や事故に一時的な同情は寄せられても、事件への関心が薄れると、多くの人は日常の平穏へと引き返してしまう。だが、私たちが甘受しているこの「平穏」は、沖縄の過重な負担の上に成立しているという事実を、今こそ直視すべきではないか。
本書を世に問う決意をした背景には、激変する国際情勢への強い危機感がある。ロシアによるウクライナ侵攻は、既存の国際秩序がいかに脆弱であるかを残酷なまでに証明した。ミサイルに破壊された街、引き裂かれる家族――それは決して、遠い異国の出来事ではない。
目をアジアに向ければ、中国の台頭と米中対立の激化により、「台湾有事」という言葉が現実味を帯びて語られている。核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮の動向も含め、私たちはかつてない不安定な時代を生きている。そして、この激動の最前線に立たされているのが、沖縄である。
南西諸島の島々では今、日常の風景にミサイル基地が重なり、戦争の影が忍び寄っている。基地問題はもはや、イデオロギーの対立という古い構図だけで語れるものではなくなった。それは、日本の、そしてあなた自身の生存に関わる問題なのだ。
『基地問題から沖縄を知るための60章』では、歴史、政治、経済、そして文化や日常生活といった多角的な視点から、沖縄の「今」を浮き彫りにした。米軍基地があることで何が起きているのか。なぜ沖縄の人々は声を上げ続けるのか。全60章の記述は、ステレオタイプな理解を脱し、複雑な現実を読み解くための土台となるはずだ。
「自分には何ができるのか」と問いかける前に、まずは「知る」ことから始めてほしい。本書が、フェンスの向こう側にある現実と、あなたの日常をつなぐ橋渡しになれば幸いである。思考を止めることは、現状を維持し、苦しむ人々を置き去りにすることに他ならない。沖縄の未来を語ることは、日本の未来を語ることそのものなのだから。