「保守」と「リベラル」。対立すると思われている二つは、本来は他者との対話や寛容を重んじる価値観を共有し、親和性が高い。「保守こそリベラル」という政治学者としてのかねての視座から、この5年ほどの評論を中心にまとめた。ちょうど第2次安倍政権発足以降と重なるうえ、昨秋の総選挙で躍進した立憲民主党・枝野幸男代表との対談も収めるなど、時事性を深く刻むことになった。
「いわゆる〈保守〉の言論が、僕には保守に思えない。保守思想の正統をたどると、現政権とは全然違う風景が見える」と語る。
保守とは何かを教えたのは、大学に入った19歳で読んだ西部邁氏の著書『リベラルマインド』だ。人間とは不完全なものという懐疑的人間観、経験に基づく知を重視し、納得しての合意形成こそ保守の醍醐味(だいごみ)——若い頭にも「これには理がある」と思えたが、それでも「俺が保守?」と半年悩んだ、というのがほほえましい。
「死者の立憲主義」という、第2章のタイトルが目を引く。保守思想では、死者もまた現在の社会の重要な構成要員なのだ。
東日本大震災の直後、阪神淡路大震災を経験した自身の体験をもとに「死者とともに生きる」という文章を書き、被災地から驚くほどの反響があったという。「死者はいなくなったのではなく、死者となって存在している。生者には必ず死者と『出会い直す』時が来る。関係性が変わるんです」
それを書いたことで、オルテガやチェスタトンら保守思想家の死者論に目が留まり、いまは政治学の重要テーマと考え始めている。
「『立憲』とは国民が権力に歯止めをかけるルール。現在の国民が民主的に選んだ権力者でも、暴走への歯止めが必要です。立憲の主体は、死者なんです」
強権的な安倍政権に代わる選択肢の一つとして、「死者の立憲主義」を軸に置くのである。
決定的な出会いをしたという西部氏には、亡くなる2週間ほど前に自宅に呼ばれ、別れをしてきたという。いずれ、西部氏とも「出会い直し」が訪れるだろう。
(文・大上朝美 写真・相場郁朗)=朝日新聞2018年2月25日
編集部一押し!
- オーサー・ビジット 教室編 今を輝こう しなやかに力をつけてね 教育評論家・尾木直樹さん@高岡市立横田小学校 中津海麻子
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 加速する冤罪ミステリー「兎は薄氷に駆ける」 親子二代にわたる悲劇、貴志祐介の読ませる技巧に驚く(第12回) 杉江松恋
-
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社
- インタビュー 「エドワード・サイード ある批評家の残響」中井亜佐子さんインタビュー 研究・批評通じパレスチナを発信した生涯 篠原諄也
- インタビュー きょうだいユーモア絵本「ぼくの兄ちゃん」が復刊! よしながこうたくさんインタビュー 子どもはいつもサバイバル 大和田佳世
- BLことはじめ BL担当書店員の気になる一冊【2024年1月〜3月の近刊&新刊より】 井上將利
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社