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競争社会の矛盾にこだわってきた 若林正恭さん「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

 超多忙なお笑い芸人が得た5日間の夏休み。競争にまみれた東京を逃れ、単身向かったのはキューバだった。旅先のあれこれと個人史が絡み合い、「幸せとは何か」という普遍的な問いに至る。
 お笑いコンビ「オードリー」のつっこみ担当。2013年出版の初の著書『社会人大学人見知り学部 卒業見込』には、社会への違和感や劣等感が渦巻いていた。芸風そのまま。「中二病」と言われつつ共感を呼び、累計20万部に。
 1年前、「40歳近いのにニュースが全然わからない」と、東大院生の家庭教師をつけた。“美魔女”や“ジビエ”が流行した理由など素朴な疑問をぶつけると、まず歴史の教科書を読むように言われた。学ぶうち、自分の悩みが新自由主義というシステムから生まれたものだと気付いたという。「うれしいと同時にショックだった。生命とか宇宙とかいったスケールの悩みだと思ってたのに、競争原理の中で自分が下位だっただけの話。それに対するひがみやねたみだった」
 気持ちは父も憧れた「違うシステムの国」キューバに向かった。ビーチで無礼な現地人に怒ったり、広告のない町並みに感動したり。本書は、等身大でありつつ芸人・若林らしい視点で貫かれている。例えば、大通りの光景。「ずらーって人がいて、ずっとしゃべってる。おじさんも若い人もそこで出会うらしい」。新鮮に映ったのは、「東京では仕事や競争抜きで人間と人間が話す現場をあまり見ない」から。「カフェで見かけるママ友も女の子も、子どもや彼氏の話をしてるようでどこか競い合ってるような気がする」
 自分の悩みに説明が付いても、芸人として成功しても、劣等感はなくならなかった。「最近はないように見せてる。その方がオシャレくらいの感じ」
 勝っても負けてもすっきりしない競争社会。書きながら気付いた。「その矛盾にずっとこだわってきたんだな」。では、「幸せ」ってなんなんでしょう。記者の質問に、間を置いて答えた。「お金より人と人の関係の方が強いと思う。僕は」
 (文・滝沢文那 写真・品田裕美)=朝日新聞2017年7月16日掲載