小崎哲哉「現代アートとは何か」書評 創作か知略か大きな齟齬
評者: 椹木野衣
/ 朝⽇新聞掲載:2018年05月19日

現代アートとは何か
著者:小崎 哲哉
出版社:河出書房新社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784309279299
発売⽇: 2018/03/27
サイズ: 19cm/419,20p
現代アートとは何か [著]小崎哲哉
本書の書き出しは「『現代アートを知りたいと思ったら、まずヴェネツィア・ビエンナーレを観(み)に行けばよい』とよく言われる」。「よく言われる」という留保に本書の特徴が表れている。実際はいきなり行っても混乱するだけだろう。私ならこう言う。「現代アートについて知りたいと思ったら、ヴェネツィア・ビエンナーレに行く前に本書を読むといい」と。
ただしハンディーな入門書というだけではない。多くの具体的な人名、例証を引きながらも、その根底で本書が投げかける最大の論点は、明治に生まれた「美術」という語がすでに耐用年数を超えているという指摘にある。
一般に美術はアートの訳語と考えられているが、本書は両者が全くの別物になってしまったことを、はっきりと示している。美術は美の創作にかかわるが、現代アートは何より知略を重んじる。両者には大きな齟齬(そご)がある。私の肩書も例外ではない。