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「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」書評 「顧客体験の優先」貪欲に追求

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2014年02月09日
ジェフ・ベゾス果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者 著者:ブラッド・ストーン 出版社:日経BP社 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784822249816
発売⽇:
サイズ: 19cm/502p

ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者 [著]ブラッド・ストーン

 1994年創業、2000年に日本上陸した時、アマゾンは「オンライン書店」だった。それが今では、音楽、映画などのコンテンツ、衣料、家電、飲料、サプリまで、驚異的な拡大を遂げた。本書は謎に満ちた創業者、ジェフ・ベゾス氏について書かれた初の“半公認”評伝。特異なリーダー像と社の特質をあぶり出す。
 実際、アマゾンは変だ。書籍購入の際に壁となる配送料をいち早く無料にした時には、果たして利益は出るのかと議論になった。商品検索すると中古出品(売り手は個人も多い)が同時に表示される。場合によっては他社サイトのリンクまで出るので、比較して買うことも可能。一体アマゾンは何を考えているのか……。
 ベゾス氏の経営哲学は「顧客体験の優先」で、顧客に還元できない無駄は省く主義という。幹部でも飛行機のビジネスクラスは禁止。新製品の会議では、パワーポイントなどスライドを嫌い、最初からプレスリリースの形で顧客視線を意識させる。直接会った者なら忘れられないという強烈な笑い声、理念の貪欲(どんよく)な追求。社員の福利厚生にはほとんど投資しないが、企業を買収しては時に失敗する。それでも生き残る。恐怖政治が恒常化し、社員はしゃにむに働き続けるのを余儀なくされる。それがネットビジネス界の古参となり、今や「小売り」では収まらない「テクノロジー企業」として羽ばたく。著者はアマゾン社の取材を許された立場だが、しばしば辛辣(しんらつ)な筆致で「ベゾスのアマゾン」を描き出す。
 なおベゾス氏は個人の夢として宇宙開発を挙げ、民間宇宙開発企業を既に創業している。毎週水曜日午後をこの会社のために使う習慣で、テキサス州の広大な所有地では、宇宙ロケットの開発が進んでいる。「なぜ」と思う人もいるかもしれないが、これもまた複雑にして孤高の経営者の一つの顔だ。
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 井口耕二訳、日経BP社・1890円/Brad Stone 米誌のシニアライター。米IT企業などについて執筆。