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堀井憲一郎「ホリイのずんずん調査」書評 金と銀のエンゼルは何枚なのか

評者: 出久根達郎 / 朝⽇新聞掲載:2013年10月06日
かつて誰も調べなかった100の謎 ホリイのずんずん調査 著者:堀井 憲一郎 出版社:文藝春秋 ジャンル:趣味・ホビー

ISBN: 9784163760001
発売⽇:
サイズ: 19cm/511p

ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎 [著]堀井憲一郎

 まずは著者から紹介しよう。ピーナツ入り柿の種(俗に言う柿ピー)の、柿とピーの比率を、わが国で初めて調査した人である。チョコボール(これは菓子)を一千個買って、金と銀のエンゼルが何枚入っているか、調べた人でもある。これも本邦最初だろう。最初で最後だね、たぶん。
 別に細かい物の割合を研究しているわけでない。いろんなことを調べている。
 鮨(すし)を「カン」で数えだしたのはいつからか。「冷やし中華始めました」の告知はいつ貼りだされるか。郵便ポストの回収は表示時間通り来るか。
 郵便を使わない人には、何それ?だろうけど(手紙を書かない世代が多いというから無理もないけど)、懸賞の応募者には、「当日消印有効」の規定があって、最終便の時間は死活問題なのである。大げさではない。大げさです。
 著者は応募者のために、九日間、定点観測している。ポストの横に立って、回収車が来るのを待っていた。台風の日も立っていたというから、どうかと思う。思わなくても、どうかです、ハイ。
 結果はどうであったか。そちらのどうかは本書で確かめていただきたい。一番きつい調査であった、と述懐しております。そうだろうと思います。思わなくても、そうだ。
 いやはや、著者の口癖がうつってしまった。この本は軽薄な文体で読ませる。調査はどうでもよろしい。週間天気予報の当たり確率を出しているが、明治の世に斎藤緑雨がすでに、間違いっこないのは天気予報の「所により雨」と皮肉っている。どうでもよい調査ばかりではない。子のつく名前の女子はいつ頃から少なくなるかとか、「バブル」という言葉はいつから使われたか、など後世珍重されるだろう。そう、本書は今和次郎(こんわじろう)の考現学の一種とみてよい。十年後の古書店で珍本の値がついているはず。さらば今のうち買い占めるべし。十年。東京五輪の三年後。楽しみです。
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 文芸春秋・1890円/ほりい・けんいちろう 58年生まれ。コラムニスト。著書『ねじれの国、日本』など。