「ニシンの歴史」書評 様々な料理も様々な戦争も
評者: 佐伯一麦
/ 朝⽇新聞掲載:2018年06月23日

ニシンの歴史 (「食」の図書館)
著者:キャシー・ハント
出版社:原書房
ジャンル:暮らし・実用
ISBN: 9784562055548
発売⽇: 2018/04/27
サイズ: 20cm/182p
ニシンの歴史 [著]キャシー・ハント
独の文豪トーマス・マンの自伝的な小説にはニシンが登場する。生地のバルト海に面した都市リューベックは、塩漬けニシンの販売と輸送によってハンザ同盟の中核を担った。塩漬けニシンは、四旬節と降臨節の肉食禁止期間の貴重な栄養源となり、ニシンをめぐっての戦争も幾度か起きた。
いまでもヨーロッパを旅すると、酢漬けや薫製など様々なニシン料理に出合う。オランダでは、生のニシンを売る屋台で、ニシンの尾を持って頭の上までもち上げ、丸呑みする伝統的な食べ方がある。同国の画家ゴッホにもニシンを題材にした画がいくつかある。
スウェーデンに住むノルウェー人の家を訪ねたときに、?酵ニシンの缶詰の「シュールストレミング」にトライしてみないか、と主に勧められたことがある。世界一臭い食べ物だと聞いて怖じ気付いてしまったことを、写真入りでニシン愛を語った本書での強烈なにおいの描写を読んで、いたく後悔させられた。