「ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場」書評 重層的下請け構造と無関心
ISBN: 9784000221948
発売⽇:
サイズ: 19cm/196p
ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場 [著]布施祐仁
福島第一原発(イチエフ)の事故現場では、2万3千人を超す労働者が、放射能の恐怖と闘いながら、懸命に作業を続けてきた。しかし、そうした現場の状況は、ほとんど外部に伝わってこない。
本書は、震災発生直後から1年あまりの間に、第一原発で働く労働者50人以上に取材して書かれたルポだ。あの中はどうなっているのか。どんな人たちが、何を思い、どんな作業をしているか。情報の空隙(くうげき)を丹念な取材で埋める。
原発労働のルポといえば、1979年に出た堀江邦夫の『原発ジプシー』が広く知られる。初めてこの作品を読んだときの衝撃は忘れがたい。
そして、今回、本書を読んで、『原発ジプシー』から30年以上たった今も、原発の労働環境が改善されていないことに驚かされる。何重もの下請け構造と賃金のピンハネ、ずさんな被曝(ひばく)線量管理、労災隠し。そうした不公正が長い間、まかり通ってきた。
5年間で70ミリシーベルトの放射線を被曝したある労働者は、多発性骨髄腫を発症して労災認定された。その後、東京電力に損害賠償を求めて提訴したが、東電は被曝と病気の因果関係を否定した。
労働者は法廷で、裁判官に訴えた。
「正直に言ってくれればいいわけですが、(東電は)すべて隠すんです。何もかも隠して隠して隠しまくる。……ほんまに使い捨てですわ」
著者が本書の取材で最もよく耳にした言葉は「使い捨て」だったという。著者も言うように、原発というシステムは、労働者を使い捨てにして成り立ってきた。そうした重層的下請け構造の一番上に座っているのは、実は電力消費者の無関心ではなかったか、と気づかされる。
登場する労働者のほとんどが匿名だ。取材に応じただけで職を失う危険があるからだ。それでも語らずにいられなかった彼らの言葉を聞くことなしに、何も始まらない。
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岩波書店・1785円/ふせ・ゆうじん 76年生まれ。ジャーナリスト。『日米密約 裁かれない米兵犯罪』など。