「天草の豪商・石本平兵衛」書評 忘れられた大商人の素顔
評者: 出久根達郎
/ 朝⽇新聞掲載:2012年10月21日
天草の豪商・石本平兵衛 1787−1843
著者:河村 哲夫
出版社:藤原書店
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784894348721
発売⽇:
サイズ: 20cm/499p
天草の豪商・石本平兵衛 1787—1843 [著]河村哲夫
三井・住友・鴻池に次ぐ江戸期の豪商だが、この人の名を知る人は多くないだろう。
薩摩を始め九州諸藩の御用商人として活躍し、唐津藩主だった水野忠邦に取り立てられる。水野の金主となり、彼の昇進を支援する。水野はやがて幕府の老中となり天保の改革を進めるのだが、石本も勘定所御用達を仰せつかる。冒頭の三商人が占めていた特権を得たのである。
しかし石本の命運は、水野の栄達に左右される。権力との癒着は、消長を共にすることだ。砲術家・高島秋帆と連携し、西洋兵器の輸入をもくろんだ石本は、洋学者を嫌う鳥居耀蔵の手で逮捕される。渡辺崋山や高野長英らを弾圧した「蛮社の獄」の余勢である。石本は獄死し、半年後、水野は強権政治を非難され失脚する。
本書は五百ページの伝記だが、いま一つ平兵衛の姿がはっきりしない。彼の研究は学界で始まったばかりという。最大の謎は、これほどの豪商の名がなぜ忘れられたか、だ。
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藤原書店・3990円