「ミュージッキング 音楽は〈行為〉である」書評 存在を祝福し、肯定する音楽
評者: 斎藤環
/ 朝⽇新聞掲載:2011年10月30日

ミュージッキング 音楽は〈行為〉である
著者:クリストファー・スモール
出版社:水声社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784891768263
発売⽇:
サイズ: 20cm/436p
ミュージッキング 音楽は〈行為〉である [著]クリストファー・スモール
“音楽というモノ”は存在しない。著者は断言する。あるのはミュージッキングなのだと。それは作曲家や演奏家の専有物ではない。リスナーも、ダンサーも、ローディーも、チケットのもぎりも、およそ音楽に関わるすべての人々は、ミュージッキングに参加している。
そう考えることで、音楽は一方的な鑑賞の対象であることをやめ、あらゆる“関係性”に開かれたパフォーマンスとなる。この視点から、とあるシンフォニー・コンサートの成立過程が詳しく検討される。そこで何が起こっているのか。
ミュージッキングとは関係することだ、と著者は言う。それは「関係を探求し、確認し、祝う」ことなのだ。
音楽の精神分析が難しいのはなぜか。ようやくその謎が解けた。分析において重要なのは「否定」や「否認」だ。しかし音楽には「否定」がない。そこにあるのは祝うこと、すなわち存在の肯定なのである。
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野澤豊一・西島千尋訳、水声社・4200円