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「単身急増社会の衝撃」書評 “無縁社会”が深まる「2030年問題」

評者: 斎藤環 / 朝⽇新聞掲載:2010年08月01日
単身急増社会の衝撃 著者:藤森 克彦 出版社:日本経済新聞出版社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784532490683
発売⽇:
サイズ: 20cm/383p

単身急増社会の衝撃 [著]藤森克彦

 現代日本は“無縁社会”だ。雇用が崩壊し、地域共同体の支えが潰(つい)え、若者が結婚しなくなる。人々の絆(きずな)は薄れ、中高年の自殺や孤独死が増え、孤立を支える無縁ビジネスが流行する。
 本書は、そんな日本における“2030年問題”の到来を予測してみせる。根拠は各種の人口統計調査だ。緻密(ちみつ)なデータの分析から浮かび上がるのは、リアルで衝撃的な未来図である。
 今から20年後、50〜60代の男性の4人に1人が一人暮らしになる。一生結婚しない男性は29%、同じく女性が23%、65歳以上の未婚者が男性で168万人、女性で120万人に及ぶという。家族を持たず、単身生活を続ける中高年層が都市部を中心に急増すること。そのとき、いったい何が問題となるのか。
 貧困、介護、孤立。藤森はこの3点を強調する。
 2人以上世帯に比べ単身世帯は低所得のケースが多く、無業者や非正規労働者の割合が高い。高齢単身者では、年金額が低いか無年金者の割合が多い。つまり単身世帯の増加は、貧困問題の深刻化につながる。
 家族のいない単身者、とりわけ男性が中高年に至ったとき、社会的に孤立しやすい。高齢単身世帯の増加は、介護需要を高める。しかし、すでに現時点で、施設も職員数も需要にまったく追いついていない。
 日本の社会保障制度は、これまで家族や企業をあてにしてきた。しかし藤森は、単身世帯の「自助」を重視したセーフティーネットの再構築を提言する。
 非正規労働者の待遇改善のためには、最低賃金の引き上げと給付付き税額控除の導入を。また高齢単身者に対しては「最低所得保障制度」を。いずれも実現可能性の高いアイデアばかりだ。ただ欲を言えば、さきごろ内閣府から推計70万人と報告があった「ひきこもり」への視点も盛り込んでほしかった。2030年には、彼らが数万人の年金受給者として一挙に出現する可能性もあるのだから。
 “2030年問題”は予防可能だ。この問題にどう取り組むかは、政治の信頼性をはかる有効な指標たりうるだろう。
 評・斎藤環(精神科医)
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 日本経済新聞出版社・2310円/ふじもり・かつひこ 65年生まれ。みずほ情報総研の主席研究員。