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湊かなえ「未来」 インタビューから見えた10年の集大成

 デビュー10周年を迎える作家の湊かなえさんが、書き下ろし長編ミステリー「未来」(双葉社)を刊行した。単行本で約440ページの物語はこれまでの作品で最も長く、学校教育や母と娘、隠された罪など、過去作にもみられたテーマを集大成。18日に選考会がある直木賞の候補作にも選ばれた。

長編ミステリー、過去最長の440ページ

 大好きなパパを病気で亡くし、たまに感情表現を失い人形のようになってしまうママと一緒に暮らす小学生の章子(あきこ)のもとに一通の手紙が届く。〈一〇才の章子へ〉で始まるその手紙の送り主は、20年後の未来の自分だという。その証拠として、10周年を迎えたばかりの「東京ドリームマウンテン」の30周年記念グッズも同封されていた――。
 「子どもが主人公の物語を書きたいと思って。これまでも中学生や高校生が出てくる作品は書いてきたんですけれど、もっと無力な、家出するのもままならない、保護者が必要な時期の子どもたちのことについて考えてみたいと思ったのがきっかけです」
 章子は未来の自分からの手紙を〈簡単に信じられるはずはない〉と思いながらも、受け取った日の夜から返事を書き始める。ママのためにマドレーヌを焼いたこと、学校であった嫌なこと。どれだけつらいことがあっても、未来に思いをはせることを心の支えにして。それは、湊さん自身の体験でもあるという。
 「しんどかった中学1年生ぐらいのときに、将来の自分に向けて愚痴や悩みを書いていた時期があって」。きっかけは学校に埋めたタイムカプセルだったが、「未来の自分に手紙を書く行為は日記と違って、逃げ場がなくても、少なくとも気持ちだけは何年か先に向いているんじゃないかと思えたんです」と話す。

「作家としての自分が全部詰まってる」

 一見するとSFのような設定で幕を開ける本作は、手紙の送り主は誰なのかという大きな謎のなかで、複数の謎が入れ子状に展開していく。だが、複雑なストーリーを編み込んでいく手つきの鮮やかさとは裏腹に、かつてないほどの難産になったという。
 約2年前に書き始めたものの、原稿用紙100枚分ほどでストップ。10周年イヤーが迫るなか、昨年10月、自ら希望して初めての「缶詰め」に臨んだ。都内のホテルで3泊4日。「ベッドがあったら寝てしまうので和室を取ってもらって。お布団を敷くのもお掃除も結構です、と4日分のタオルを最初にもらって」
 それからは怒濤(どとう)の勢いだった。1日13~15時間は机に向かい、年末年始の2カ月で約500枚分を一気に書いた。「記憶がないんです。書いてるときの記憶もないし、日々の生活で何をしてたかの記憶もない」。真っ白になるまで出し尽くし、「作家としての自分が全部詰まってると思えるものが書けた」と語る。
 2007年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞し、同作を収めた「告白」で08年にデビュー。同じ頃に流行した言葉から「イヤミスの女王」と呼ばれ、ベストセラーを連発した。読後感をあらかじめ決めるような呼称には抵抗感もあるが、本作でも不幸や悲劇の連続には容赦がない。
 「絵がないから、血の出方や痣(あざ)の大きさは読み手がイメージのなかで調整できる。それぞれの人が、もうこれ以上やめてくれと思うギリギリのところまでをちゃんと書こうと。書いててつらかったですけど、そこで手加減すると結局、自分の見たいものしか書いていないことになるので」
 これまで大半の作品がドラマや映画になったが、自身では一貫して「絶対に映像化できない小説を」と考えてきたという。「なので『映像化が決まりました』って言われたときはうれしくもあり、悔しくもあって。どうやって見せるんだろうと、逆に楽しみです」。そして、いたずらっぽく続けた。「手紙だし、子どもがひどい目に遭うし。『未来』こそは無理なんじゃないかなあと思ってるんです」(山崎聡)=朝日新聞2018年7月9日掲載