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和洋折衷感を大事にしたかった 「BLEACH」監督・佐藤信介さん

文:加賀直樹、写真:樋口涼

 現世に生きる人間、現世を彷徨う霊魂を霊界へと誘う死神。そして狂暴な異形の悪霊・虚<ホロウ>――。それぞれの宿命を背負ったキャラクターが、縦横無尽に躍動する人気漫画『BLEACH』が、この夏、実写で映画化される。約2年の製作期間を費やし、その突き抜けるような世界観を鮮烈に描き出したのは、映画監督・佐藤信介さん。これまでにも数々のコミック原作の映画化を試み、国内外でヒットを飛ばし続けている。名作漫画を実写化する意義とは。

 「4年ほど前に原作を読み、世界観が面白かった。僕らが生きる何気ないところに、実は悪霊や死神がいるかも知れない。人間の魂を食らう悪霊・虚<ホロウ>と、それを阻止しようとする死神が、現世を跋扈し、闘いが人知れず日夜、繰り広げられているんです。この独特な世界をマイルドにせず、リアルに堂々と描きたいという強烈な衝動が生まれました」

©久保帯人/集英社 ©2018映画BLEACHُ製作委員会
©久保帯人/集英社 ©2018映画BLEACHُ製作委員会

 原作は久保帯人。2001~16年、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された。全74巻のコミックの全世界でのシリーズ累計発行部数は、1億2000万部を誇る。幽霊が見えること以外、ごく普通の高校生が、死神を名乗る謎の少女から力を譲り受け、悪霊と死闘を繰り広げた末、新たな展開へ至るまでを描く。映画でまず目を引くのは、壮絶な闘いを展開するキャラクターたちが、日本古来の雰囲気をまといながらも、この現実世界と自然に混ざっている点だ。いにしえの畏怖を感じる悪霊・虚<ホロウ>でさえ、現代世界と奇妙な調和を醸し出す。

 「普通ならば融合し得ないイメージが混然一体となっているんです。日本的情緒、台詞の言い回しも含め、歌舞伎さながらのちょっとカブいた雰囲気をまとっている。もしかしたら海外に住む人にとっては、そこに『和の魅力』を感じるかも知れない。『BLEACH』というタイトルながら和装。ロックが鳴っていそうだけれど紋付き袴、みたいな。そんな、新しい『和洋折衷感』を大事にしていきたかった」

 映画の舞台は、東京のどこかにある架空の街、空座町(からくらちょう)。ロケーションには現実味が最重視された。度肝を抜くのは、クライマックスの駅前バスロータリーの場面だ。関東近郊にある広大な空き地に、駅舎やバス乗り場、チェーン店などを緻密につくり上げた。そんな街が悪霊との闘いで無残に壊されていく。その破壊の過程を形作ったのはCGではなく人力で、すべて映画芸術の職人芸によるものだという。

 「ファンタジックな世界を具体的に、リアルに、まるでそこにあるかのように実写で見せる魅力。徹底的に、今、日本でできる限りの力を入れてやってみよう、と」

 主人公の高校生・一護(いちご)役を演じたのは福士蒼汰さん。原作の世界観を作品に凝縮させるうえで監督が痛感したのは、彼ら俳優陣の想像力、演技力こそが、リアリティを持たせるカギだということだった。一護の、乱暴で「カブいて」いながらも、どこか一本芯の通った難役を福士さんは好演している。

 「彼は原作がすごく好きだったし、自分なりに研究して挑んできた。だから、けっこう早々にキャラクター像を掴み、頼もしさが滲み出たんです。クランクアップの時は、『ああ、一護を見るのもこれが最後か』って寂しくなったことを覚えています」

©久保帯人/集英社 ©2018映画BLEACHُ製作委員会
©久保帯人/集英社 ©2018映画BLEACHُ製作委員会

 「GANTZ」「図書館戦争」など、これまでにも漫画や小説の実写化に意欲的に取り組み、話題を呼んだ佐藤監督。原作をこよなく愛するファンたちの反応を、どう見ているのだろう。

 「乗り越えるべきことが山のようにあって、一つひとつ解決していくのは至難の業ですが、原作ファンの方々が『ちょっと実写見てみたいな』って思えるビジュアルにしたい。『どうせこんな感じだろう』と観てみたら、『えっ、こんなふうに?』って、ちょっと意外な驚きを持ってもらえたら嬉しい。プラスアルファの飛躍を与えたい」

 原作が忠実に再現されているか、そんな「確認作業」だけでは面白くない。絵でもない、アニメでもない、実写で撮るという、まったく違うレベルのメディアを目指したい。実写化で生まれる新たな魅力が、別次元・別ベクトルの驚きを与えてくれる。これが映画化する意味だと佐藤監督は信じている。それならば、原作を読んだことのない人にとって、実写化映画とは。

 「原作のツボな部分が、読んでいない人には機能しない時が意外とあるんです。そこが難しい。何も知らなくても映画として見た時の面白さがないと、息切れする。シナリオでどうつくるか、いつも頭を悩ませています」

 創作活動の傍ら、ふと息抜きに手に取るのは、小説だ。

 「最近は、谷崎潤一郎の『細雪』を読んでいますね。今さらですけど、なんか読んでいなかったな、と思って。谷崎は好きなのに、肝心の『細雪』を読んだことがなかった。長いんで、時間のある時にチョロチョロ。まさか、映画化しようとか、そんなことは一切考えていませんよ」