インターネットの百科事典として知られる「ウィキペディア」は、読み始めると面白くなってしまい、リンクをたどりながら夢中であちこち読んでしまうことがある。本書はそういう面白さを凝縮したような内容で、1日に1ページを読んで1年間続けるという趣向になっており、日々楽しめる。
教養の扱いは、時代によって変化してきた。かつては上流階級のものだった教養は、近代に中間層が勃興してくるとともに「憧れ」の対象になる。日本で一般家庭の応接間に、訪問販売の分厚い百科事典が置かれるようになったのはそのころだ。しかし近代の終わりには社会の階層がフラットになり、そうした憧れは薄れ、教養に関心も持たれなくなった。
しかし21世紀に入り、教養について語られることが再び増えている。背景には、インターネットの普及があるのかもしれない。膨大な情報が流れ、それらを脳内で処理するための基盤として、教養の意味が浮上してきているのではないだろうか。溺れるほどに情報が増える中で、自分の思考の軸となりうる世界観が求められているのだ。
その意味で、このような教養書がベストセラーとなっているのは好ましい傾向と言える。しかし本書の感想をSNSなどで見ると、「雑学がまとめられた本」「飲み会のネタとして使えそう」といった反応も散見された。
知的好奇心を満たすという意味では雑学も悪くはないが、教養をただの雑学にしてしまうのはもったいない。教養とはただ豊富な知識を持つことではなく、世界を認識するための視座を得ることである。だから本書に1ページずつ紹介されているような話は、教養の入り口でしかない。その先に、過去の多くの書物に書かれてきた知見をもとにして、より良い世界観を自分の中に形成していくことが、本当の教養なのだ。本書から飲み屋の席のウンチクを増やすだけでなく、広大な知の世界へと足を進めていきたい。
◇
小林朋則訳、文響社・2570円=9刷16万3千部。5月刊行。歴史、文学、科学、哲学など7分野を曜日ごとに取り上げている。=朝日新聞2018年7月21日掲載
編集部一押し!
-
一穂ミチの日々漫画 ひうち棚「見てないとしょうちしないよ」 子どものころの感覚がよみがえる静かな臨場感(第17回) 一穂ミチ
-
-
中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 思い通りにならない日々どう受け止める? 三浦綾子「一日の苦労は、その日だけで十分です」から考える 中江有里 中江有里
-
-
杉江松恋「日出る処のニューヒット」 芦沢央が「ハザードランプ」で見せた知らない作家の顔(第43回) 杉江松恋
-
韓国文学 ペク・ヒナさん「ハッピーバースデイ」インタビュー おしゃれの魔法で「自分」を取り戻す 加治佐志津
-
本好きのための職業図鑑 大藪百合さんが語る職業としての図鑑編集者 永遠に未完成 ワクワクを刺激 岩本恵美
-
谷原書店 【谷原店長のオススメ】 山田五郎「世界一やばい西洋絵画の見方入門」 好きなものを面白がって伝える楽しさ 谷原章介
-
インタビュー ミステリー小説『0秒前の彼女』はどう生まれた? 今村昌弘さんが挑んだ逃走劇と謎解き PR by 双葉社
-
インタビュー 「5日で自分の才能が見つかる本」堀田秀吾さんインタビュー 才能がないという思い込みから抜け出そう PR by 祥伝社
-
トピック 【PR 光文社・創英社・みすず書房・ミネルヴァ書房】プレゼント 朝日新聞1面広告の本、好書好日メルマガ読者計20名様に
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社