1. HOME
  2. ニュース
  3. 魯迅の弟 周作人に光を 早大で初の国際学術シンポ

魯迅の弟 周作人に光を 早大で初の国際学術シンポ

「周作人日記」の1939年1月12日付。翻刻・普及している刊本と異なっていることがわかった=周吉宜さん提供

「戦時中に対日協力」中国では今も批判

 魯迅の弟で日本ともゆかりの深い文学者、周作人(1885~1967)に関する初の国際学術シンポジウムが先月、東京の早稲田大で開催された。主催者(科研費)代表の小川利康早稲田大教授(中国文学)によると、魯迅と並ぶ近現代中国文学の要であるにもかかわらず、戦時中、心ならずも対日協力したため、中国では今も批判され、学会などが開けない状況なのだという。

 20世紀初め、兄と共に日本に留学した周作人。武者小路実篤、谷崎潤一郎ら日本の文豪とも親しく、日本人女性を妻にし、人道主義文学を目指した。この日は周作人の孫で、元中国現代文学館副館長の周吉宜さん(68)が「周作人の著作を中国で出版するにはまだ困難がある」とし、原稿や書簡の収集・整理活動の現状について報告した。約2万通の書簡には、日本人約300人からの約1400通が含まれるという。
周作人が批判される理由の一つが、日本占領下で北京大学図書館長に就任したことだ。39年1月の日記原本には「実際行くわけにはゆかない」と逡巡(しゅんじゅん)の思いが明瞭に書かれていたが、中国で翻刻・刊行された『周作人年譜』では「事実上就任するしかない」(いずれも原文中国語)と、すぐに決断したように直されていた。結果として就任したが「日記の改ざんは、周作人に対する歴史評価を意図的に曲げる意図があったのでは」と周さんは言う。

 小川教授は「周作人が日本で得た学識は文化人類学、落語、ギリシャ神話など多岐にわたる。中国文学以外の専門家の協力も得て、さらに研究を進めたい」と語る。周さんは周作人が日本の友人に宛てた書簡の情報提供を呼びかけている。問い合わせは弘前学院大学ホームページ(http://www.hirogaku-u.ac.jp)から、大学院・顧偉良(コイリョウ)教授まで。(岡恵里)=朝日新聞2018年08月22日掲載