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著者・土屋健さんが語る「リアルサイズ古生物図鑑」の楽しみ方

合成担当から最初に届いたサンプルの中で、土屋さんが「このシリーズはイケる!」と確信した1枚(「リアルサイズ古生物図鑑 古生代編」(技術評論社)より)

そもそも古生物って何?

――完全に文系な質問で恐縮ですが、「古生物」ってそもそもどういう定義なんでしょうか?

 ざっくりと簡単に言うと、人類が文明を作る前に絶滅しちゃった生物を一括りに「古生物」と呼びます。よく間違えやすいのが「古代生物」という言葉。一見似たような言葉ですけれど、学問上は「古生物学」で、研究者は「古生物学者」。私も所属している学会は「日本古生物学会」。ですので、この機会に「古代生物」ではなく「古生物」という言葉を覚えていただけると嬉しいですね。
 地球の歴史がおよそ46年。そのうち、およそ54100万年前から現在までの時間を3つに分けて、古い方から古生代、中生代、新生代と呼んでいます。この本では、古生代よりもちょっと前、生物の化石が残っている約6億年前まで遡って「古生代編」としています。人類が生まれたのはおよそ700万年前と言われていますから、かなり前の時代です。

――古生物ってたくさん種類がいそうですが、本書への掲載基準は何なんですか?

 一つには、有名どころです。一般的には知られていなくても、生命史を語る上で教科書に出てくるものや、フィギュアなどの商品になったり、博物館で大きく展示されていたりするものですね。中生代の恐竜などに比べると古生代の生物は知名度が低いですけど、どこかで誰かが見かけたことがあるようなものでないと、「リアルサイズ」が通じないですから。
 あとは、私と監修者の好みです。

土屋さんのオフィスにあるテラタスピスのレプリカ。テラタスピスももちろん収録されています

古生物学は探偵学

――古生物に関心がなかった私でも、「リアルサイズ古生物図鑑」は楽しく拝見できました。古生物の面白さって、どんなところにあると思いますか?

 やっぱり、今は見ることができない動物や植物の形や姿です。例えば、本の表紙にもなっている、背中に大きな帆を持ったディメトロドンとか、こんな形の生物は今は見られないですよね。
 そして、この姿かたちは化石に基づいて推理されて出てきた姿であり、生態なんですよ。つまり、古生物学はその推理を楽しむ学問でもあるんです。

――ということは、研究が進む度に姿を変える古生物もいる、と?

 もちろん、います。研究が進めば、ほとんどの生物の情報がアップデートされますし、中には姿そのものがガラッと変わるものもあります。
 例えば、このイカみたいなツリモンストラム。これは全く正体がわかっていないんですけど、2016年にサカナの仲間ではないかという論文が出て、一時は縦に平べったくてエラもある姿で紹介されていました。

下が2016年の論文を元にしたツリモンストラムの復元図(土屋健「生命史図譜」(技術評論社)より)

 ところが、翌年、この論文を否定する論文が発表されたんです。それで、最新情報をもとにした本書では、横に平たく、エラもない姿になっています。

「リアルサイズ古生物図鑑 古生代編」(技術評論社)より

 古生物の面白いところは、新たな研究によって次の展開が大きく変わる、ドラマチックな展開です。かつて、私が取材した研究者が言った「古生物学は探偵学」という言葉がその一面をよく表していると思います。探偵も現場に残された足跡やダイイングメッセージなど、いろんな証拠から推理していきますよね。それと同じで、古生物学も新たな化石からわかる発見をもとに推理していく学問なんですよ。

古生物はアートだ

――図鑑に載っている古生物の色はとてもきれいですけど、これもあくまで推測ということなんですね。

 ほとんどの古生物はどんな色だったかわかりません。いくつかは構造色だったり、色素をつくる細胞が残っていたりしますが、あとは全てイラストレーターの想像です。もう、アートの世界なので、よっぽどありえないだろうという色でない限り、色についてはお任せしています。

――ありえない色っていうのはどんなものなんですか?

 例えば、森の中に生息する生物がショッキングピンクとかだったら、襲うにしろ、襲われるにしろ不利すぎますよね。
 あと、海中生物で海面近くを泳ぐような生物は、一般的にお腹側が白くて背中側が黒っぽい。海底からも空からも見えにくくなって、身を守れるからです。だから、かっこいいからといって白黒が反転していたら、「ちょっと、ありえないかな」ってなっちゃいます。

紙の本という形へのこだわり

――「ありえない」といえば、本書の古生物と現代風景の組み合わせもありえないものですけど、この組み合わせはどんな風に生まれたんでしょうか?

 以前から、古生物の本当の大きさって伝わりにくいなと思っていて、サイズを伝えるために「ラブラドールレトリバーと同じくらいの大きさ」といったように、文章では工夫していたんです。だから、原稿を書く前にいつもひと通り考えるんですよ。

土屋さんのお気に入りの一つ、ディプロカウルス(「リアルサイズ古生物図鑑 古生代編」(技術評論社)より)

――本書を見ていると、後半になるにつれて何だか古生物の個体サイズがだんだん大きくなっているような気がします。

 おお! そこに気づいていただければ。実は、本として楽しむ形っていうのがコンセプトとしてはあります。ページをめくった時にサイズ感の違いを感じてもらいたいんです。例えば、アノマロカリス。前ページのオパビニアを見てから見ると、同じ時代でいかにアノマロカリスが大きいかがわかります。これって本だからこそできると思うんですよね。なので、一枚絵で楽しむよりも、ページをめくりながら楽しんでもらいたいです。

古生物のことをもっと知るなら化石から

――本書で古生物に興味を持った人が次に手にすべき、おすすめの本を教えてください。

 一番のおすすめは手前味噌で恐縮ですが、古生物ファンの皆さまに「古生物の黒い本」と呼んでいただいてる、拙著の「生物ミステリーPRO」シリーズです。「リアルサイズ古生物図鑑」には化石の写真が一切載っていませんが、その復元姿のもととなった化石の写真と解説がしっかり載っている本なので、「この化石からこの姿になっているのか」と楽しんでもらえると思います。
 このシリーズが難しく感じるようでしたら、古生代に関しては「ブルーバックス」シリーズの「古生物たちのふしぎな世界」もおすすめです。

リアルサイズをリアルに実感できるスポット

――ここまでくると復元された古生物のもととなる化石が実際に見たくなります。おすすめのスポットはありますか?

 まず一つは本書の監修も担当してくれた群馬県立自然史博物館です。表紙にもなっているディメトロドンの化石を組み立てた標本があります。それと、鋭い牙が特徴のイノストランケヴィアがいる栃木県佐野市葛化石館。そして、静岡の東海大学自然史博物館。ここには全長2メートルほどの重量級の爬虫類、スクトサウルスの全身復元骨格がありますよ。
 実際に現物を見てもらうとサイズ感がわかりますし、迫力もあります。本を見た後は、ぜひ標本を見に行ってほしいです。