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似たもの同士が「部族」化する

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月27日
操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか 著者:ジェイミー・バートレット 出版社:草思社 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784794223524
発売⽇: 2018/09/20
サイズ: 19cm/247p

操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか [著]ジェイミー・バートレット

 主義主張を異にした人々、党派が、言論の力で相手を説得しようと努め、議論が平行線をたどれば、妥協の途を探る。それも不調に終われば、最後の手段として数の力に持ち込む。
 本書を読むとこのような民主主義観がすでに過去のものになりつつあることを痛感する。言葉のやりとりによる「アナログ」的民主主義が、デジタル・テクノロジーによって操作される疑似民主主義へと様変わりしつつあるのだ。
 本書を書いたのは、イギリスのあるシンクタンクに籍を置く、ソーシャルメディア専門のディレクター兼ジャーナリストである。その彼が描く現代民主主義の変貌ぶりは迫真性に富む。
 例えば、2016年のアメリカ大統領選挙。トランプ陣営はデジタル・テクノロジーを最大限に駆使して、有権者の取り込みをはかる。千万単位の有権者を、ネット・ショッピングで得られた個人情報やフェイスブックの「いいね!」クリックなどをもとにタイプ分けする。そしてなびく可能性のある有権者には、メールやネット広告をピンポイントで大量に流すことにより、トランプ側への誘導をはかる。
 インターネットは人と人、国と国を瞬時に結びつけ、仮想の公共空間をつくる、といわれてきた。確かに、インターネットが討論の公開性をもつ限りではそうであろう。だが、大統領選挙で見られるようなデジタル情報のやりとりは裏世界の出来事、人々の気づかぬところで進行する。
 操作される民主主義は社会の「部族」化と裏腹だというのが著者の見解である。似たもの同士が「いいね!」によって党派化し、その純度を高めていく。政治における独裁化、情報経済における独占化はこのような変化の帰結だという示唆は一考に値するだろう。
 アメリカで起こっていることは対岸の出来事ではない。規模こそ違え、日本でも民主主義の操作は進んでいるはずである。
    ◇
 Jamie Bartlett 英・シンクタンクのディレクター。ネット上の社会運動などを研究。『闇ネットの住人たち』