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「魂の処刑」書評 宗教の解釈で正当化

評者: 齋藤純一 / 朝⽇新聞掲載:2019年01月19日
THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語 著者:ナディア・ムラド 出版社:東洋館出版社 ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ

ISBN: 9784491036175
発売⽇: 2018/11/29
サイズ: 20cm/413p

THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語 [著]ナディア・ムラド、ジェナ・クラジェスキ

 著者のひとりナディア・ムラドは、イラク北西部に暮らしていたヤズィディ教徒である。周囲とは異なった信仰を持つこの少数民族は、周辺部に放置され、ときに同化の対象となり、繰り返し迫害を被ってきた。伝承によればその迫害は過去?回に及ぶが、2014年のIS(イスラム国)によるジェノサイドも、宗教を理由に正当化された。
 前半では、故郷コーチョでの暮らしが描かれる。狭苦しく、貧しいながらも、この村は子どもたちの声にあふれ、夏の夜は大家族が肩を並べて屋根の上での眠りにつく。生業である牧羊や麦や玉葱などの畑作の手伝い、美容サロンをもつ夢。場所を奪われた者の愛惜が伝わってくる。
 後半では、村がISに包囲され、見棄てられ孤立していく事情、「サビーヤ」(性奴隷)として市場にかけられ、「人間であるという感覚さえ失う」ような扱いを被った日々、そしてイスラム教徒に助けられ、囚われていたモスルを脱していく経緯が克明に語られる。
 強く印象に残るのは、生の破壊は男性と女性とでは異なるという事実である。ムラドは兄のうち六人を銃殺で失ったが、女性に向けられた暴力は一瞬のものではなかった。「サビーヤにされたものにとっては、毎日、一秒一秒が死んでいく時間だった」。ステップを踏むかのような辱めは「魂の処刑」とも表現される。ISが行使した性暴力は計画的・組織的で、コーランやイスラム法の解釈を通じて正当化されてもいた。
 「従軍慰安婦」問題でも問われている戦時性暴力は、言うまでもなく日々の性暴力の延長にある。ノーベル平和賞の受賞も、〝#MeToo〟など、根強い性支配を問い直そうとする運動の高まりと切り離せない。ムラドたちは孤立無援の、最も暴力を被りやすい状況に置かれた。そうした状況に陥りやすい人々を放置しないように、という本書のアピールにどう応じられるだろうか。
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 Nadia Murad 人権活動家。2018年にノーベル平和賞▽Jenna Krajeski 米国が拠点のジャーナリスト。