「イスラエルに関する十の神話」書評 中東情勢の安定に一筋の光明
評者: 出口治明
/ 朝⽇新聞掲載:2019年02月09日
イスラエルに関する十の神話 (サピエンティア)
著者:イラン・パペ
出版社:法政大学出版局
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784588603556
発売⽇: 2018/11/26
サイズ: 20cm/295,6p
イスラエルに関する十の神話 [著]イラン・パペ
中東情勢の安定にはパレスチナ問題の解決が不可欠であることは世界の共通認識となっている。しかし、強硬なイスラエルと、テロで応酬するパレスチナが対立し、解決への手順が全く見えない。日本人の多くは諦観を感じているのではないか。本書はそういった常識的な先入観を覆し問題の本質に迫った力作である。
本書は問題の本質は植民地主義にあり、二国解決案は欺瞞だと指摘する。同案では民族自決権があるのはユダヤ人だけでパレスチナ人は二級国民として同化させるか追放する対象にすぎない。そこに作られる国はかつての南アフリカで見られたバンツースタンのような疑似国家でしかない。
従って問題の解決には、イスラエルの体制変革が必要だと説く。著者はユダヤ系イスラエル市民だという。そこに一筋の希望が見える。しかし神話は手ごわい。考古学的に実在が疑問視されるダビデ、ソロモンの栄華を造ったのだから。