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ワダエミさん、20年ぶりに邦画の衣装デザイン 映画「サムライマラソン」

文:永井美帆、写真:有村蓮

原作を読んで映画のシナリオが楽しみになった

――ワダさんが日本映画の衣装デザインを担当するのは1999年に公開された大島渚監督の「御法度」以来、20年ぶりです。「サムライマラソン」に参加することになったきっかけは何でしょうか?

 3年前でしょうか。中国ドラマ「花と将軍 OH MY GENERAL」の衣装を作り終わった後のことでした。これがもう大変な量の衣装を作ったものですから、「少しお休みしようかな」と思っていたところに今作のプロデューサー・中沢敏明さんが現れて、お話を頂きました。中沢さんとは古くからのお付き合いで、(2011年に死去した夫で演出家の)和田勉がNHKを退職して映画を撮る時に大変お世話になった方です。それで原作の『幕末まらそん侍』を読みまして、同じ「安政遠足」が題材の映画「まらそん侍」(1956年)も見ました。原作の小説はそれぞれ別の藩士を主人公にした五つの短編で構成されていますが、映画ではどんなシナリオになるのか。楽しみになったんですね。

 ちょうど同じ頃、安中藩出身で、私の母校(同志社女子中学・高校)をつくった新島襄の本も読んでいたんです。近所の本屋さんが「店じまいするから、好きな本を持って行って」って言って下さって、新島の生涯が書かれた文庫本を偶然見つけました。新島はアメリカに渡って教育者になりましたが、原作の中にも少しだけ新島の名前が出てきます。いくつかの不思議な縁が重なって、引き受けることにいたしました。

©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
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――藩主の娘・雪姫が身につける美しいブルーの着物や悪役・隼(はやぶさ)の西洋風の衣装など、ワダさんの自由な発想が随所に見られます。衣装のデザインで特に意識したことを教えて下さい。

 安中藩は小藩で、決して財政的に豊かではありません。ぜいたくなものは着せられませんし、遠足をするのだから動きやすい衣装が一番だと考えました。「御法度」も幕末が舞台でしたし、その時代の資料はたくさん持っていたので、フェリーチェ・ベアト(幕末から明治にかけて日本を撮影したイギリスの写真家)や、上野彦馬(幕末の写真家)の写真を参考にしながら。でも私の場合、絶対にそのままのデザインにはしません。例えば雪姫はただのお姫様ではなく、絵の才能にあふれ、異国への憧れを持っています。そんなキャラクターを表現するため、和柄にティファニーブルーを合わせ、華美過ぎないけど、よくよく見るとシルクの生地を使っているんです。

 先日、日本の男女格差が世界110位、先進国で最下位レベルだというニュース(世界経済フォーラムが昨年12月に公表した「ジェンダーギャップ国別ランキング」)を見ました。とても恥ずかしいことです。幕末にも自分の意志を持って生きた雪姫のような女性がいて、彼女がこの後どう生きていくのか、みなさんに感じて欲しいと思っています。

©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
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衣装デザインはグーグルより本が頼り

――黒澤明監督の「乱」の衣装をデザインされた時、数百冊の資料を車に積み、監督の自宅を訪ねたと伺いました。衣装を考える時、どのような本を参考にされるのですか?

 「乱」の時は、何度も何度も黒澤監督とコンタクトを取って、衣装や生地が出来るたびに持って行きました。今となってはとても貴重な経験でした。衣装のデザインと本は切り離せません。どんな国、どんな時代のお仕事が来てもよいように、私の家は本で埋もれています。長野の家に地下室を作って書庫にしていますが、和田勉の本も合わせると、2万冊は超えているのではないでしょうか。これだけあっても、何がどこにあるかは大体把握しています。その中から必要な資料を東京の自宅に運び、デザインを考えます。Googleで検索しても、限られた情報しか出てきません。本が頼りになります。おかげで、家の中は大変なことになっていますけどね。

――お仕事に関する本以外も読みますか?

 毎晩読んでいます。本が好きなものですから。金井美恵子さんの作品は全て持っていますし、昨年、多和田葉子さんが翻訳賞(全米図書賞の翻訳文学部門)をとった時は大変うれしかったです。不思議と女性の作家さんが多いですね。女性といっても、非常に独立した視点を持っている女性。多和田さんなんかはベルリンに住んでいらっしゃって、世界を行き来しながら、日本や日本人を見つめています。その視点がとても面白い。少なくともこういった方の文章からは「男女格差が110位の日本人」を感じることはありません。

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