今回は野生動物たちを紹介しよう。
アフリカは二度旅をしたが、マサイマラ国立保護区はまさに野生動物の王国だ。ナイロビの空港からセスナ機に乗ってサバンナの上空を1時間ほど飛ぶと、眼下に赤茶色の土をむき出しにした滑走路が見える。
デコボコした地面へ飛行機は機体を軋ませながら着陸する。その後は物資や人を次々と積み替え乗せ替えして、あっという間にまた飛び立ってしまう。アフリカは灼熱というイメージをもっていたのだがドアが開き外に出てみると、思ったよりも暑くなくて爽やかなカラッとした風が吹き抜ける。そして草の優しい匂いがして、とても懐かしい気持ちになった。人類の祖先はアフリカ生まれ、大げさだけど自分の中にアフリカの息吹と呼応する感性があるのだと感じ、この場所がとても好きになった。
東京で生活していると四方を家やビル、何かしらの建造物に囲まれている。しかしここは見渡す限りどこまでも草原が続き、その行き止まりには地平線が広がっている。そこからは空が始まる。僕は伸びをして、身体を反らせ天辺を見つめてみた。そこにあるのは只々空と雲だけ、そこからさらに無理して後ろに体を反らせてみたら今度は逆さにサバンナが見えた。空ってのはこんなにも広いのかと新鮮に驚く。
さて、このマサイマラ、訪れる人のお目当てのほとんどは野生動物だろう。僕らはオフロード車に乗って動物たちの生息域にお邪魔する訳だが、動物園でしか見たことのなかった動物達が、当たり前だけど柵などもなく実際に目の前で生きている。まず最初に目に飛び込んでくるのはヌーだ。食料を求めて何十万もの群れで列をなし2000kmも移動しながら、ゆっくりとサバンナを歩いている。そして一度走り出せば、その大群はさながら大地がうねっているようだ。
大きくて目立つのはゾウ、その姿は可愛くて優しそうなんてイメージをはるかに超えて圧倒的な貫禄だ。どんな肉食動物もゾウには敵わないそうだ。
キリンも近くで目にすると長い首よりもそのはち切れんばかりの内臓の重さに目がいく。草食動物の腸はとんでもなく長いのだろう。
百獣の王ライオンは昼は案外寝てばかりいるが、いざ狩りとなると話は違う。食事のタイミングに遭遇したが恍惚の表情で生肉を食べる、あの本能をむき出しにした目は今も忘れられない。
チーターはその無駄のない体をバネのように使って獲物を追う。地上最速の走り(時速120kmにもなる)は圧巻だ。
サイはフォルムが格好良くて好きなのだが、あの巨体を物ともせず軽快に走る(こちらも時速50kmも出るそうだ)。だが、象牙同様にサイのツノも密猟のターゲットにされ、20世紀初頭には50万頭いたサイも現在は3万頭を切っているそうだ。食べる以外の理由で他の動物を殺す人間の業について考えさせられた。
さらに珍しいのはヒョウ、あんな柄をしてたら目立ちそうなものなのに木陰に入ると、背景と馴染んでしまってなかなか見つからない。
マサイマラを訪れ様々な動物に出会い、生命は環境に適応すべく様々な進化を遂げてきたのだと改めて感じた。そしてその多様性を育む場所があるということが素晴らしいとも思った。しかし動物の近くまで行って一生懸命写真を撮っている自分がまるでハイエナのようだなと思った瞬間、人間の活動が広範囲におよぶほどに、彼らの生息域はどんどん小さくなってゆくだろうことを肌で感じた。環境への問題意識はこういった実感から生まれるのだろう。
弱肉強食の野生の世界を生き抜いている動物たちは、ピシッとした緊張感を漂わせながらも威風堂々とした佇まいがあり、息をのむ美しさがあった。その多様性の分だけこの星は豊かなのであろう。一つの命のあり方について思い巡らす旅となった。