「忖度と官僚制の政治学」書評 「官邸主導」は何を壊したのか
評者: 齋藤純一
/ 朝⽇新聞掲載:2019年03月02日
忖度と官僚制の政治学
著者:野口雅弘
出版社:青土社
ジャンル:政治・行政
ISBN: 9784791771295
発売⽇: 2018/12/20
サイズ: 19cm/267,27p
忖度と官僚制の政治学 [著]野口雅弘
モリカケ問題に続いて厚労省の統計調査にも忖度がはたらいたように見える。官僚制の誇る精確性や公平性、M・ウェーバーのいう「技術的優越性」が損なわれたことは確かだ。権力者の意向を推し量ることは、涵養されるべきエートスにでもなったのだろうか。
本書によれば、「政治主導」や「脱官僚」と呼ばれる動きは、官僚制の組織利害を叩いてきたが、今度は政治の恣意に道を開いた。他方、「官から民へ」を掲げ、透明性や競争原理を導入した改革は、官僚支配を弱めてはいない。競争条件の設定や評価・判定の仕方には「裁量」が物をいう。
本書は、この数十年官僚制がどう変化してきたを、ウェーバー、C・シュミット、H・アーレントらの議論に遡って明らかにする。
政と官の緊張関係は著しく緩み、官邸発の政策は行政的合理性による抵抗に直面することなく推し進められていく。「官邸主導のテクノクラシー」は何を壊したのかが見えてくる。