朝井リョウさんら人気作家を多く世に出してきた「小説すばる新人賞」を、19歳の増島拓哉さんが受賞した。受賞作『闇夜の底で踊れ』(集英社)は、テンポよくあけすけな関西弁の会話が痛快な作品。大阪の極道の社会にうごめく暴力を描き切った。
関西学院大法学部の2年生。生まれも育ちも大阪。小中学生の時からコナン・ドイルや筒井康隆さんを読み、小説家に憧れた。
高校で文芸部に。2年生の時に大沢在昌さんの『新宿鮫(ざめ)』を読んで、本格的に小説を書きたいと思った。本作は「人生で頑張ったことがなかったので、大学で何か一つくらい頑張ろう」と応募、約4カ月で書き上げた。選考委員の五木寛之さんや北方謙三さんらに、「19歳の筆とは思えない」と絶賛された。
物語の主人公、伊達は35歳、無職、パチンコ依存症。ソープ嬢に入れ込み、闇金の借金を踏み倒していたところ、かつての兄貴分・関川組若頭の山本に再会する。やがて組同士の衝突が起き、組長引退を巡る争いに巻き込まれていく。
ゴダール監督の名作「気狂いピエロ」から想を得た。リアリティーのある描写が光るが「友達にヤクザはもちろんいませんし、パチンコや風俗にも行きません(笑)。想像するしかない」。北野武監督の映画「アウトレイジ」を見るなどして自分なりに咀嚼(そしゃく)した。関西弁の会話は、ラップや桂枝雀(しじゃく)の落語を聞きながら執筆したという。
自身の雰囲気と作風に、ギャップを感じられることが少なくないという。「友達は少ない方で、おとなしい印象をもたれます。ミステリー研究会の活動をしたり、バイトをしたり、彼女と遊んだり。平々凡々です」
今後は「企業と組織を知るために」就職活動をしながら、執筆を続けていくつもりだ。「最もシンプルで、最も難しい目標ですが、面白い小説を書いていきたい。それだけを考えたい」(宮田裕介)=朝日新聞2019年3月13日掲載
編集部一押し!
- 谷原書店 【谷原店長のオススメ】梶よう子「広重ぶるう」 職人として絵に向かうひたむきさを思う 谷原章介
-
- コラム 読んでぐっすり 眠りにつく前に読みたい絵本・童話集4選 好書好日編集部
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 君嶋彼方「春のほとりで」 10代の日々を活写、青春小説作家の代表作が生まれた(第17回) 杉江松恋
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 自力優勝が消えても、私は星を追い続ける。アウレーリウス「自省録」のように 中江有里の「開け!野球の扉」 #17 中江有里
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 文學界新人賞・福海隆さん バンドの宣伝で初めて小説を書いたら……受賞。「LGBTQ+を陳腐化したい」 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#16 清繭子
- BLことはじめ 「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」 原作とドラマを萌え語り! 美味しい料理が心をつなぐ年の差BL 井上將利
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社