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ジェーン・スーさん「私がオバさんになったよ」インタビュー 人生は折り返してからの方が楽しい

文:永井美帆、写真:有村蓮

――スーさんの本は、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』や『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』など、タイトルに引きつけられる人も多いと思います。今作のタイトル『私がオバさんになったよ』はどうやって決まったんですか?

 この本は「小説幻冬」に掲載された対談連載をまとめたものですが、連載時のタイトルは「もういちど話したかった」だったんです。書籍化するにあたり、担当編集者と結構な数のタイトル案を出し合いました。100本ノックじゃないですけど、最後に私が苦し紛れで出した案がこれだったんです。「それ、いいです!」って編集者からすぐ返事がきて、最初は「え、大丈夫?」と思いましたが、結構評判がいいみたいで安心しました。「私がオバさんになったよ」と言われると、少しだけ心がざわつく人に届いて欲しいですね。

――対談にしたのはなぜでしょうか? 対談相手の8人はスーさんとほぼ同世代ということを除けば、活躍するフィールドはさまざまです。どういった基準で決まったんですか?

 雑誌やウェブサイトから対談のお仕事を頂くことは結構多くて、これまでに30人くらいの方としています。対談って大体あらかじめテーマが決まっているんです。例えば「未婚女子、これからどうする」とか。でも、話しているうちに別のことまで話したくなることが度々あるんですよ。だから、ちょっと乱暴な言い方ですけど、話し足りなかった人に「もう一度話したいんですけど……」と声を掛けて、改めて対談したものをまとめたのがこの本です。あえてテーマは設けませんでした。相手の方も、「で、何話すんですか?」って意外と聞いてこなかったですね。

――8人との対談を通じて、どんなお話が印象に残っていますか?

 それぞれに印象深いエピソードがありますが、まず対談1人目の光浦さんが「女とお笑い」について、これほどつまびらかに話してくれるとは思っていませんでした。バラエティー番組のディレクターや構成作家ってほとんどが男性だそうで、そういう男社会で女性芸人が活躍することについて、じっくり語ってくれた。一昔前までは「ブス」ってフレーズだけで笑えていたのが、今ではそれが通じなくなりました。素晴らしい時代のはずなのに、ずっと「ビジネスブス」をやってきた光浦さんにとっては分岐点でもあるんです。この話はお笑いだけじゃなく、会社や社会全体にも当てはまる話だと思います。そんなことを光浦さんは本当にテレビのまんま、あの感じでしゃべってくれました。本の中にも書かれてますけど、こういう風に女性だけでダラダラしゃべり続ける番組があったら面白そうですよね。

――脳科学者の中野信子さん、男性学者の田中俊之さんという研究者との対談は、難しい内容をかみ砕いて話してくれていて、分かりやすかったです。

 中野さんとは普段からLINEでこういったことを話していて、「このログをコピペして売ったらいいんじゃない?」なんて冗談を言っていたんです。脳と体、脳と心の関係について、ここまで分かりやすく私に話してくれる人って、中野さんのほかにいない。「人間は生まれた時点でもう80点くらいあって、そこから先はボーナスポイント」と言ってましたけど、こういう話は中野さんの真骨頂ですよね。

 田中先生とは3年くらい前に「男性の生きづらさ」について対談したのが初対面でした。男の人って、自分の生きづらさについてなかなか話さないじゃないですか。それは決して彼らが傲慢(ごうまん)だからではなくて、「男たるものグチグチ言うな」っていう社会規範があるからでしょう。だから、ずっと聞いてみたかったんです。田中先生はまずこちらの話に「そうですね」と同意して、そこから持論を話す非常に穏やかな方です。それは、社会学とか男性学という学問のなせる技かなと思います。「理知的に生きる」ということを探求する学問ですからね。今回は、3年前から時代がどう変わったのかを話しました。

――漫画『逃げるは恥だが役に立つ』の海野つなみさんとは「遅咲き」「独身」「女」という共通項を感じるとおっしゃっていましたね。

 一緒にするのもおこがましいんですけどね(笑)。そもそも私は漫画の「逃げ恥」が大好きで。結婚にまつわる気になっていたことが、すべて描かれていたのが「逃げ恥」でした。「これこれ、こういうことだよ!」って。海野先生は、Twitterを見る限り、スーパー規則正しい生活をしていらっしゃるんですよ。朝は連続テレビ小説を見て、仕事の息抜きにお菓子を焼いて、早く寝る。実際お会いすると、「愉快で楽しい女友達」という感じです。同世代の女性が、私たちがずっとモヤモヤ感じていたことを漫画で代弁してくれたことに、勇気をもらいました。今回は「逃げ恥」以前と以降で生活がどう変わったかを聞きたかったんですけど、「親戚に何やってるか説明しやすくなった」っておっしゃってて。「芸能人に会えてうれしい」とかじゃなくて、親戚なんですよ。この感じ、最高です。

――唯一、この書籍のためだけに対談したのが能町みね子さんですね。今まで対談したことがなかったっていうのも意外でした。

 お会いしたことはあったんですけど、対談やイベントでの共演依頼って今まで一度もなくて。この2人を組み合わせてもコンテンツとして弱いって思われていたのかな(笑)。40歳を過ぎると、仕事が変わったり、引っ越したり、色々な事情のせいで、「会っておけば良かった」「やっておけば良かった」と後々思う事態が起こるんです。だから、出来るだけ後回しにしない方がいいなと思って。それで、このタイミングで能町さんに対談をお願いしました。趣味も性格も全く違うため、なかなか共通点が見つからなかったんですけど、唯一、お互いにパートナーと暮らしていて、稼ぎ手が自分であるという点が一致していたんです。まだまだサンプル数が少ない形態なので、分かってくれる人が見つかってうれしかったです。「もう少し良い食材を使って料理して欲しい」とか「洗濯物を干す時、もうちょっとパンパンして欲しい」とか、そういうささいなことですけど、うまく相手に伝えられないんですよね。

――ほかにも、山内マリコさんや宇多丸さん、酒井順子さんも、どれもすごく面白かったです。

 自分で言うのもあれなんですが、この本はめちゃくちゃ面白いです。対談してくださった皆さんの言葉が機知に富んでいて、私の名義で出すことが申し訳ないくらい。出版前のゲラを読んでいた時も、覚えておきたい言葉ばかりが出てきて、「何これ!」って思わず付箋(ふせん)を貼ったり、蛍光ペンを引いたりしそうになりました。そんなこと初めてですよ。8人の方との対談を通じて自分の意識がアップデートされて、新しい見方や考え方が出来るようになったような気がしています。