「焼きまんじゅう」と聞いて、読者の皆さんはどういったものを思い浮かべるだろう?
「え、お饅頭を焼いちゃうの?」
「焼き目がついた温泉饅頭的な……?」
「それって普通に焦げない?」
大学進学のために上京した当初、ご当地トークで焼きまんじゅうを説明しようとすると、決まってみんな変な顔をしたものである。
焼きまんじゅう。
それは、知る人ぞ知る、群馬県民のソウルフードである。
字面からして、よくあるあんこ入りの温泉饅頭を炙って食すというイメージを持たれやすいのだが、普通、焼きまんじゅうにあんこは入っていない(いや、あんこ入り焼きまんじゅうもあるにはあるのだが、それはあくまで「あんこ入り焼きまんじゅう」なのであって、温泉饅頭とは全くの別物なのだ。この違いをどうか分かって頂きたい)。
それを聞くと、今度は皆さん決まってドン引きした顔でこう言う。
「ええ? あんこが入っていないのに饅頭名乗ってんの?」
「何が美味しいのそれ……」
OK、分かった。君達の疑問はもっともだ。でも今だけはお口チャックだ。まずは私の話を聞いてくれ。
焼きまんじゅうのもとになるのは、ほんのりと麹の薫る素まんじゅうだ。なまっちろいそれをいくつか竹串に刺したものに、砂糖や水飴、あるいは蜂蜜などで甘くした味噌ダレをたっぷりとハケで塗りつけ、炭火で焼く。
するとどうだ。
甘い味噌がぽたぽたと炭にこぼれ、香ばしいにおいがプウンと漂い始める。それは風に乗り、農作業中のおじいちゃんからベビーカーの赤ちゃんまでを誘惑し、気付けば誰しも笑顔で竹串を舐めているという状態になっている。
もう、ほんとに、めっちゃ美味しいのだ。県外の人は「甘すぎる」とか「こんなに食べるの」とか度肝を抜かれるようだが、そのうちクセになるから、騙されたと思って一度食べてみて欲しい。贔屓目だと言われても構うものか。だって美味しいんだもん!
県民は誰しも、行き着けの「焼きまんじゅう屋さん」があるのではないかと思う。
私の場合、家から徒歩十分ほどのところに、昔からお世話になっているお店がある。物心ついた時から母に連れられて通っていて、小学生の頃は図書館の帰りによく立ち寄ったものだった。
自転車を停めて暖簾をくぐると、小さな店内では年代ものの扇風機が回っていて、おばちゃんとおじちゃんが笑顔で出迎えてくれる。そして「いつものをお願いします」と言うと、普通のものよりも少し大目にタレをつけてくれるのだ。一本百八十円のそれが、どれだけ美味しく、有り難かったことか!
上京してからは中々行けなかったのだが、先日そのお店を訪ねると、そこだけ時が止まったかのように何も変わっていなかった。
いや、昔と違い、今はアイスボックスの代わりに、よく手入れのされたクンシランが見事なオレンジ色の花を咲かせていた。昔は一株だったクンシランにも、もう孫が出来たのだという。
以前と同様に多めのタレつきで出してくれた焼きまんじゅうは、まったりとした味噌ダレの焦げた表面はサクサクとしているのに、中はふかふか、あつあつだ。
私の思い出の味、そのままであった。
この仕事を始めてもう四十年になるね、と笑っていたおばちゃんのもとには、噂を聞きつけたお客さんが県外からもやって来るという。だが、きっと何よりもこのお店の恩恵に与っているのは、ここの焼きまんじゅうに育てられた、地元の四十年分の子ども達なのではないだろうか。最近では、昔赤ちゃんだった人が、赤ちゃんを抱っこして訪ねて来ることもあるそうだ。
おばちゃん、おじちゃん。どうかお元気で、これからもとびきり美味しい焼きまんじゅうで思い出をたくさん作って下さいね!