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その場で出会った壁はそのときしか登れない プロクライマー・大場美和さん(後編)

文:福アニー、写真:樋口涼

>大場さんが漫画「BLAME!」の魅力を語る前編はこちら

登れた時は涙が出るくらい嬉しかった

 「校舎の壁をよじ登る女子高生」のCMや、サッカーのレジェンド・三浦知良選手と出演した「リポビタンD」のCMで話題を集めた、プロクライマーの大場美和さん。9歳からスポーツクライミングを始め、日本やアジアのユース大会で優勝するなど活躍し、17歳の時にはボルダリング種目で日本代表入りも果たした実力派だ。まずはカズさんと共演した時の感想を聞いた。

 「指の筋力を鍛えるトレーニング用に、大きな板に小さな板が何個もついている器具があるんですね。指のかかるところが10ミリ・8ミリ・6ミリとあって、それにただひたすらぶら下がる練習をするんですけど、すごく指が痛くて辛いんです。でもそれを見てカズさんが、『そういう辛くて地味なトレーニングが一番強くなれるんだよね』っておっしゃったのが印象的で。『どんなスポーツでもそうなんだ、がんばろう』って思いました」

 そもそもクライミングに夢中になるきっかけはなんだったのだろうか。

 「クライミングをやる前は器械体操をやっていたんですけど、腰を痛めてしまってやめないといけなくなって。でもなにかスポーツはやりたいと思っていた時に、たまたま父が読んでいた雑誌でクライミングの記事を見たんです。そこに載ってる写真がすごくかっこよくて、私もやってみたいなと思って始めました。兄が自宅近くのクライミングジムを探してくれて、最初は休日に家族みんなで体を動かすくらいの感じで行っていたら、めちゃめちゃはまりましたね。クライミングをやることで腹筋や背筋も鍛えられて、それが天然のコルセットのようになって、いまでは腰もすっかりよくなりました。

 始めた当初は木登り感覚で、ただただ登るのが楽しかったですね。慣れてくると壁に対して自分がどんな態勢でいるのかを感じながら登るんですけど、体の感覚をつかみやすかったのは、器械体操の時に身につけた筋力・バランス力・柔軟性のおかげだと思っています」

横浜市都筑区の「クライミングジム プロジェクト」で

 東京オリンピックの正式種目になったスポーツクライミング。ボルダリング、リード、スピードの3種目それぞれの特徴と得意な種目は?

 「ボルダリングは4~5メートルくらいの壁で、セットされた複数のルートを登っていくつ登れたかを競う競技です。リードは15~20メートルくらいの壁で、ロープをつけながら登って登れた高さを競う競技になってます。スピードはその名の通り登れた速さを競います。

 私はボルダリングとリードをずっとやっていました。ボルダリングとリードは大会ごとにルートが違うので、瞬時に登り方を考えて登るところがすごくおもしろいです。その場で出会った壁はそのときしか登れない、まさに一期一会ですね。練習でいろんなルートを登っていろんなパターンを体に取り入れることによって、本番でアイデアが思いつくこともあります」

 最近では自然岩のクライミングを中心に活動している大場さん。

 「クライミングってもともと自然岩を登るところから始まっていて、その練習のために人工岩ができたんですね。なので自然岩のクライミングにも憧れがあって10歳の時に初めて登ったんですけど、自然にできた穴やすき間を登っていくのもおもしろいですよ。ここのジム(クライミングジム プロジェクト)のオーナーがフリークライマーの小山田大さんという方で、そのときから親しくさせてもらっているので、国内外の岩を一緒に登りに行っています。

 自然岩もボルダリングとリードがあって、ボルダリングは岩の下にマットを敷いて落ちても大丈夫なようにします。リードは岩の途中にロープをかけて命綱のようにするんですが、ロープの間隔がすごい開いてると結構落ちるので怖いです(笑)。

 いままで登ったなかで特に印象に残ってるのは、地元の愛知にある『ステロイドパフォーマンス』というリードの岩です。中学生の時に父と通って、20メートルくらいの高さを14日間ほどかけて登りました。登れた時は涙が出るくらい嬉しかったです。いま挑戦してみたいのはフランスにある岩。去年行った時にできなかったルートがあるので、今年は絶対に登りたいなと」

クライミングって自由でいいなと思います

 改めてスポーツクライミングと自然岩のクライミング、それぞれの魅力について聞いてみた。

 「一番最初にやってはまったのは人工岩でのスポーツクライミングだったので、登れなかったものがだんだん登れるようになる達成感はすごかったです。あと個人種目なので、自分に合ったスタイルでできるのも魅力ですね。仕事帰りにふらっと来てサクッと登って帰る人もいれば、トレーニングで黙々と登ってる人もいるし、友達と来てフィットネス感覚で楽しくやってる人もいて。40代でクライミングを始めてずっと続けてる人もいるので、歳を重ねてからでも楽しめるスポーツではありますね。そういうのを見ると、クライミングって自由でいいなと思います。

 自然岩のクライミングは悠久の時を感じられますね。そういう意味では、前編で好きな漫画に挙げた『BLAME!』のスケール感に近いかもしれないです(笑)。何十年・何百年・何千年前からその岩があって、いままでにたくさんの人たちが同じルートを登ってきて、それを自分も登れるし、未来のクライマーも登る。過去や未来に想いを馳せることができるのも素敵だなと思います。すべて自然が作り出したものなので、ひとつひとつの岩が本当に奇跡なんですよね。絶対に登れない岩だと思っても、先人が登ってきただけのとっかかりが必ずどこかにあるはずだから、それを頼りに登れるのもすごいことだなって」

 来年に控える東京五輪に向けて、自身としてはどういう関わり合いができたらいいと思っているのだろうか。

 「リポーターができたらいいなと思ってますね。いまは競技はやっていなくて大会には出ていないので、アスリートとしてオリンピック出場を目指すというよりは、メディアの人間としてクライミングや選手の魅力を伝えていきたいです。

 普段はここのジムで練習してるんですが、キッズスクールのインストラクターもやっていて。小・中学生に教えてもいますね」

 さまざまな活動でクライミングを広めている大場さん。彼女の教え子から、未来のオリンピアンが生まれるかもしれない。