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プロサーファー野中美波さん 東京五輪・最後の出場枠への決意 (後編)

文:長谷川晶一、写真:松嶋愛

同じ波は一つとしてないサーフィンの魅力

>野中美波選手が好きなマンガについて語る前編はコチラ

――いよいよ、東京オリンピック本番が間近に迫ってきましたが、野中選手がサーフィンを始めるきっかけは何だったのですか?

 元々、私の両親がサーフィンをやっていたので、私も小さい頃から一緒に海に行っていました。でも、最初の頃は水が怖くておびえていたんですけど、10歳のときに「美波もやってみる?」って言われて始めました。それでも最初の頃はそんなにやりたくなかったし、そんなに夢中になっていたわけではないんですけどね(笑)。でも、初めて波に乗れたとき、ボードに立てたときはやっぱり気持ちよかったです。それから、少しずつサーフィンに夢中になっていきました。

――野中選手の「美波」という名前は、まさに、海が大好きな両親の願いが込められたものなんですね。

 私が生まれたときから、両親の中には「この子にはサーファーになってほしい」という願いがあったそうです。私が小学校6年生のときに、埼玉から今の練習場所である千葉に引っ越してきました。それはプロサーファーになるためで、この頃には「将来はプロサーファーになりたい」という思いが芽生えていました。

――サーフィンの魅力とは、どんなところにありますか?

 さまざまなスポーツがある中で、サーフィンが最も自然の影響を受けるスポーツだと思います。天気はもちろん、風の強さ、波の高さ、潮の流れなど、多くの要素が影響してきます。それに、ひとつとして同じ波がないのも魅力です。一生、同じ波に乗れることはないから、一本、一本の波が常に新しい。それもサーフィンの大きな魅力です。いい波を求めて朝早い海に出たり、夕暮れの海で練習をするんですけど、そのときの朝日や夕日は本当にきれいなんです。そんな光景を見たときには、「あぁ、サーフィンって最高だな」って、心から思えますね。

――では「競技としてのサーフィン」「スポーツとしてのサーフィン」の魅力はどんなところにありますか?

 今もお話ししたように、どれひとつとして同じ波がない中で、選手たちがどの波を選ぶのかというのは選手それぞれの考え方や個性が見えるので面白いと思います。サーフィンでは1本の波に1人が乗るのが決まりで、「優先権」というルールがあります。ピーク(崩れる直前の波の頂点のこと)に最も近い選手に優先権が与えられるんですけど、アクションを起こしたのにそれを逃してしまうと、優先権は他のサーファーに移ってしまいます。だからこそ、「どの波を選ぶか?」というのが大切になってくるんで、その辺りも見どころだと思いますね。

――そうすると、「理想の波を待つ」というのも大きなポイントになるんですね。

 そうです。その波が来るかどうかの保証はない中で、自分の理想の波が来るまで待てるかどうか。以前の私なら何も考えずに「よし、乗ろう」って思っていたんですけど、あせって変な波に乗って後悔をする失敗を、何度も繰り返したことで、最近では待つことの大切さを学びました。いい波かどうかの見極め方は、以前と比べればぐっと上達したと思います。逆に、「よし行ける」と思ってパドリングしている途中に、「あっ、やっぱりやめればよかった」と思いながら、波に乗ることもありますけどね(笑)。

残りひと枠をめぐる熾烈な代表争い

――東京オリンピックからサーフィンが正式種目となりました。正式決定したときにはどんな心境でしたか?

 サーフィンがオリンピックの正式種目になるなんて、私がサーフィンを始めた頃はまったく想像もしていませんでした。決まったときは「出たいな」という気持ちになりましたね。しかも、大会会場は「志田下(釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ)」で、私がいつも練習するビーチに決まったので、なおさらその思いは強くなりました。

――東京オリンピックでは女子3選手の出場枠があり、すでに2名が決定しています。現在は、残り1枠をめぐる熾烈な代表争いの真っ最中です。代表が決定するまでの流れを教えていただけますか?

 4月に最後の1人を決める大事な「ジャパンオープン」という大会があります。ここで優勝しないと、私はオリンピックの出場権はもらえないんです。だから、今は4月に集中しています。4月の大会で優勝するために、2月10日からインドネシアで練習するんですけど、ここで最後の追い上げを図りたいと思っています。3月は試合が続くので、集中的な練習はできなくなるので2月がポイントだと思います。

――「残り1枠」という重圧の中で、この2月、3月を過ごしていくわけですね。

 はい。確かにプレッシャーはありますけど、これから4月までの間は、とにかく自分次第だと思っています。2月にどれだけ自分を追い込めるか? トレーニングもサーフィン練習も、自分がイメージしていることをどこまで実現できるか? それはすべて自分次第だけど、「絶対にできる」という自信はあります。もしも、ドラえもんが横にいてくれたら、もっと私のことを追い込んで見守ってくれると思うけど、今回は自分の力で頑張ります(笑)。

――4月のジャパンオープンで優勝して代表を確定させる。そこから、7月26日からのオリンピック本番に向けて最終調整をしていくという流れになるわけですね。

 4月の大会で優勝して、その勢いを保ったままでオリンピック本番に臨めたらいいなって思っています。自分を追い込むのはやっぱり大変なことだけど、それをやり遂げたら、「あぁ、やってよかったな」っていつも思えるので、今回もその達成感を感じるために努力していきます。

――野中選手は高校時代からすでに、国際大会での経験も豊富です。日本人選手と海外のサーファーとの違いはどんなものでしょうか?

 海外の選手は試合本番だけでなく、練習の時点からすでにグイグイ前に出る気の強い選手が多いですね。私はそんなタイプではないので、「ああ……」って思いながらはじの方で静かにしていたんですけど、最近では「それじゃあダメなんだ」と思って、少しずつ前に出られるようになってきました(笑)。元々、すごくネガティブで緊張するタイプなんですけど、海外での経験を重ねたことで、最近では焦らずに落ち着いて臨めるようになりました。

――現在18歳ですが、今後20歳、25歳のビジョンはありますか?

 2年前の16歳のときに5年間の目標を立てたんです。18歳でオリンピックに出場してメダルを取る。そして、今年は海外の試合を中心に活動して、21歳、22歳には世界最高峰のCT(チャンピオンシップ・ツアー)のランキングに入ることが目標です。

――あらためて、これからの意気込みを教えていただけますか?

 サーフィンはまだまだメジャーじゃないので、オリンピックを通じて多くの人にこのスポーツの魅力を知ってほしいと思います。それで、実際にやる人が増えたらいいなと思いますね。しかも、今回は自分の地元開催なので、ぜひ大会出場を決めて、出るからにはメダルを取りたいです。今は不安の方が大きいけど、2月、3月の追い込みで自信をつけて本番に挑みます!

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