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夫婦って、いま一番面白いコンテンツ トミヤマユキコさんが語る「夫婦ってなんだ?」

文:篠原諄也 写真:斉藤順子

夫婦を信じたい人、解体したい人

ーー夫婦に関心を持ったきっかけを教えてください。

 私は結婚してるんですが、昔から結婚願望が全然なくって。他人事として興味がありました。なんでみんな結婚したがるんだろう? 結婚後すごいしんどそうなのに、なんで別れないんだろう? などと思っていました。同じ日本に暮らしていても、知らない種族がいるという感じで。

ーー距離感を持って見ていたんですね。本の中で、昨今「夫婦を信じたがっている人がいる一方で、夫婦を解体したがっている人がいる」と書いていますが、どういうことでしょう?

 いまだに古き良き夫婦像に憧れを持っている人がいます。そういう人たちは結婚制度を信じたいと思っている。でもその一方で、もうこれは機能しないと感じている人もいます。時代が流れていくと、価値観が変わっていきます。たとえば、専業主婦になりたいという女の子は、昔だったら「お嫁さんタイプ」として「すごいいいね」と言われていたかもしれないけれど、今だったら「え、俺だけが働くの?」と思われたりする。今まで通りの夫婦像にこだわっていたら、息がしづらいと感じてしまう人も多いと思います。

ーー映画やドラマなどのフィクションでも、夫婦の描かれ方は変化していますか?

 変わってきていますね。最近だと「逃げ恥」(「逃げるは恥だが役に立つ」)のヒットは大きかったと思います。あれは緩やかな夫婦解体の話です。ドラマでは、表向きは星野源とガッキー(新垣結衣)のムズキュンストーリーとなっているけれど、新しい夫婦のつくりかたの話だとみんな気付いているんですね。

 最終回で二人は家庭という会社を一緒にやっていく共同経営責任者だとしています。何でも話し合いで決めましょう、と。「いちいち言わなくたって、俺がお前のことを愛しているのは当たり前だろ」といった価値観の時代は終わっていて。結婚していても、他人に対する気遣いがないとダメだよね、という話になっている。旧来的な夫婦じゃなくても、「逃げ恥」のような新しい関係性でもいいんじゃないか。そう思った人が多かったんだと思います。

ーー他にもジブリ作品の夫婦像の分析もしていますね。時代によって、夫婦の描かれ方に変化があると。

 「風の谷のナウシカ」(1984年)などの初期は、お母さんは本当に存在感がないんですよ。家庭を運営していく上で、発言権がほとんどない。でもだんだんお母さんが「おかみさん」みたいな描かれ方になる。「魔女の宅急便」(1989年)のパン屋のおソノさんが顕著ですが、発言権がバリバリあって、家庭のことを自分で決めます。見ず知らずの魔女の女の子(キキ)を自宅に住まわせると決めたり。夫には後から「住まわせることに決めたから」と言うだけです。夫はどちらかというとリードする側ではなく、弱い存在として描かれています。

ーー妻が強く、夫が弱く描かれるようになるんですね。

 ただ、最近の「風立ちぬ」(2013年)や「かぐや姫の物語」(2013年)になると、古き良き夫婦が描かれています。でも、固定的な役割でやっていこうとして、夫婦間のディスコミニケーションが増幅する結果になるんです。

 そういう風にジブリの夫婦には色んなバリエーションがあるんですが、どれも「こういう夫婦は素晴らしい」と完パケ納品はしないんですよ。ちょっと考えさせるというか、違和感があって。

ーーそんなジブリの作品を見て、何か学べることはあるでしょうか?

 女性が権限をちゃんと持っている家はいいなと思います。みんな幸せそうなんです。女性の力をちゃんと信じてあげて、母親や妻が自由に発言できる。そうした方が世界は明るい。ジブリを見ているとそう思いますね。

ママタレになるのは難しい

ーー本の中ではフィクション以外にも、芸能界の夫婦を取り上げています。たとえば、家事や育児について積極的に発信する「ママタレ」に注目したのはなぜでしょう?

 芸能ゴシップがすごい好きなんです。ワイドショーが好きで、ずっとママタレはウォッチしていました。ママタレになる人とならない人がいる。ママなのにママタレと呼ばれない人もいれば、こちらはママっぽく思ってないのに、自称ママタレになる人もいたりして。

ーーママタレになる・ならないの分岐点とは?

 何か一芸に秀でている人は本人がどれだけママだと思っていても、世間からはママと見なされません。宇多田ヒカルはママタレと思われないんです。逆に、ものすごい失礼ですけど、グラビアをやっていた人は、それが一生やれる芸だとは見なされていないところがあります。いつかその賞味期限が切れかけていくときに、ママタレとして再生していく。そんな動きが絶対ある気がしていて。今までやっていたことを一生やっていくのが難しいタイプの人が、積極的にママタレにいくんですよね。「インスタで柔軟剤の名前あげるよね」「料理するよね」みたいな。

ーーママタレにはかなり器用な技術が必要だとしていますね。

 ママタレは嫌われたら終わりです。たとえば芸人だったら、汚れ芸をやっていても、それが面白いということもありえる。みんなに叩かれてバカにされても、それが逆に輝きになっていく。でも、ママタレは嫌われたら終わりで、社会的なルールを逸脱してはいけません。たとえば、子どもに対して、荒々しく対応しちゃいけない。SNSで「言うこと聞かないからはっ倒しました」とは言えないわけで。厳しくしつけるニュアンスならいいかもしれないけれど、ちょっといきすぎると「虐待じゃない?」と非難される。逆に甘やかしすぎると、「しつけがなってない」となる。ダメ出しをしたい人にとっては格好の餌食です。そこをうまく潜り抜けながらやっていかないといけません。

ーー成功しているママタレは誰でしょうか?

 木下優樹菜は本当にすごいですね。一見ヤンキーのママなので、叩かれやすいんじゃないかと思える。でも「優樹菜は優樹菜の育て方あるから。ちゃんと筋は通してるから」という風に発信することで、みんな「優樹菜、意外とちゃんとしてるんじゃないか」となっている。

 特にお父さんのフジモン(藤本敏史)の扱いがすごくうまい。インスタでロクでもない写真を「#インスタ萎え」というハッシュタグをつけて投稿しています。でも、そうバカにしつつ、みんなフジモンのことを嫌いになれないんです。絶妙な茶化し方で、結局上品なんだと思います。本当にうまいです。

ーー単にノロケだけを発信していると、あまりよく思われないんでしょうか?

 若い夫婦だとそうだと思います。長年結婚している夫婦のノロケはOKなところはあって。ダウンタウンの浜ちゃん(浜田雅功)と小川菜摘の夫婦って、浜ちゃんの誕生日の写真とか載せるんですけど、そこまでくるとノロケはOK。でも、辻希美と杉浦太陽だったら「胸焼けする!」という感じになる。

 ただ、単にノロケを出しちゃうと拒絶反応がくるのは、日本特有の話かもしれません。未婚の男女の恋愛の話は恋バナとして面白く聞くけれど、結婚したやつのノロケ話なんて知るかよ、となっちゃう。

ーー海外と日本で違うんですね。

 海外では結婚後も仲良い状態を外に見せることに、あまり抵抗感がないですよね。外国の大統領とその夫人が手を繋いでいても違和感はないけれど、安倍晋三と夫人が手を繋いでいたら、なんか無理があるなと思う。それは普段手を繋いでいないことが分かっちゃうから。「お前、今ビジネス的にやらないとだから手を繋いでるだろ」みたいな(笑)。

ーー国内では、都市部と地方で価値観の違いはあると思いますか?

 あるんじゃないですかね。東京はいろんな人がいるので、他の人と違っていても、放っておいてもらえるところがある。いちいち詮索されたり、ジャッジされたりしません。この前、渋谷で打ち合わせをしてたんですけど、店に知り合いの飲食店のマスターが来ていたんです。彼女か奥さんと思しき女性とデートしていた。見ていたら、彼女は普通に話をすることができなくて、ぬいぐるみを口のところに持っていって、裏声で話すんです。「まじで!」と思って。打ち合わせをしていた知人と「マスターの彼女やばくない? 奥さんかもしれないけど!」ってなって。「でも、マスターすごい幸せそうだし、まあいっか」と。会話がぬいぐるみを経由しないとできないって、ちょっと不便そうですけどね。

夫婦はまるで「横浜駅」?

ーートミヤマさんは結婚願望はなかったとのことですが、結婚していますね。どんな夫婦の関係なのでしょう?

 6年前にバンドマンの夫と結婚したんですけど、それも向こうから言われて。「人生で1回くらい結婚してみるか」と思ったんです。ただ結婚に興味がないだけあって、夫婦っぽくできなくて。私たちの関係を例えると、サザエさんの磯野と中島なんです。男の子同士の友達みたいです。妻だからこれをすべき、夫だからこれをすべき、というのがありません。性別を意識しなくて大丈夫な、気の合う友達とルームシェアをしている感じです。他の人の結婚後の話を聞くと、こういう夫婦生活は珍しいような気がするぞ、と思いますね。

ーー色々な夫婦を見てきたトミヤマさんにとって、夫婦の魅力は何だと思いますか?

 夫婦は会社に例えると、ものすごい長期のプロジェクト。一生かけて取り組めること自体が面白いと思います。「結婚したからもう安心」ではなくて、そこから一大事業が始まる。うまくいってもすごいし、途中で離婚などでプロジェクトが終わっても、経験としては興味深いと思います。

ーーそのプロジェクトでは大変なことも多い?

 結婚して一安心したとしても、それはまじで一瞬で。知り合いの話を聞いても、「旦那がむかつく」とか「子どもが思うように育たない」とか、課題は常にあるんですよ。ぬるま湯みたいな生活が待っているということはない。

 夫婦を例えると、ずっとどこかを工事している横浜駅みたいな感じ? 駅としての機能は一応キープされてるんだけど「駅舎が完成しねえなあ」みたいな。そんなわちゃわちゃに手をつけているのが全ての既婚者だと思うので、すごいことをやってるんじゃないかと思います。みんな偉いと思います。そんな面倒臭いこと、ようやるなって。

ーー本の1章で夫婦とは何か「いまはまだわからない」と書いています。本を出版した今、答えは出ましたか?

 ますますわからなくなりました。連載を書いていくうちに、一つの答えが出る可能性もあったんですよ。でも、わかったのは本当に多様な夫婦がいるということでした。むしろ「普通の夫婦」っていねえな、と。ある知人は結婚願望がもともとなかったそうですが、この本を読んで「いろんな夫婦がいるから、結婚してもなんとかなるかもしれないと思った」と話していました。まだ、同性婚やオタク夫婦など取り上げられなかった話もたくさんあります。これからも夫婦ウォッチをライフワークとして続けていきたいと思っています。