百年戦争のアジャンクールの戦い(1415年)で仏軍に大勝し、フランスの王位継承権を獲得した英国王ヘンリー5世(1387~1422)。同国の歴代国王の中でも特に人気が高く、彼を主人公にしたシェークスピアの史劇「ヘンリー5世」は今も上演が続くが、その生涯は実際にはどんなものだったのか。『ヘンリー五世 万人に愛された王か、冷酷な侵略者か』(明石書店)は歴史学からそれに答えた1冊だ。
筆者は石原孝哉(こうさい)・駒沢大学名誉教授(英国文学)。「英国史上まれに見る悪人として描かれたリチャード3世と同様、ヘンリー5世についても、シェークスピアによって大胆に脚色が行われた」と指摘する。
シェークスピアが盛んに戯曲を発表した16世紀、英国はヘンリー7世(ヘンリー・チューダー)を祖とするチューダー朝のエリザベス1世の統治下にあった。
このため、当時はチューダー朝を礼賛するのが常識で、「チューダー家はヘンリー5世の王妃だったキャサリン・オブ・バロアが、7世の祖父のオウエン・チューダーと結婚して始まったため、5世には特別な敬意が払われていた」と石原さん。
戯曲の中の5世は皇太子時代は無鉄砲だったが、即位すると軍事と行政の才能を開花させ、英国に黄金時代をもたらす。本書では、このような「美化」の結果、英国の愛国心のアイコンとなった5世と、それに対する英国の歴史学者らの論評を交えつつ叙述が進む。歴史上の人物の評価は、時代の価値観を映すことがよくわかる。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年6月19日掲載
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