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謎めいた怪異を鮮やかに解決 オカルト探偵の魅力に触れる4冊

文:朝宮運河

 「ミステリーは好きだけど、ホラーはちょっとね……」。
 これまで幾度となく耳にした台詞である。そんなホラー嫌いの方々にぜひ一読を勧めたいのが、「オカルト探偵もの」と呼ばれる一連の作品だ。心霊現象のエキスパートが専門知識を駆使し、名探偵さながらに事件を解決してゆくこのジャンルは、ホラーでありながらミステリーとしての興味も味わえる。一粒で二度美味しい、贅沢なジャンルなのだ。

 たとえばE&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探究』(アトリエサード)は、オカルト探偵ものの先駆けとして知られる作品だ。冷静沈着にして頭脳明晰な心霊学者、フラックスマン・ロウが、超自然的な事件を鮮やかに打ち破る12編。19世紀末に書かれただけあって、クラシックな作風であることは否めないが、語り口に工夫が凝らされており、意外にも読みやすい。
 包帯をした腕の幽霊が出現する「バエルブロウ荘奇談」、住人が次々と首を吊られて死んでゆく「グレイ・ハウス事件」あたりを面白く読んだ。中には幽霊を装った人間による犯罪もあって、最後まで油断がならない。シャーロック・ホームズと同時代、イギリスではこんな探偵も活躍していたのだ。

 ホラーでありながらミステリーといえば、三津田信三の名前が即座に思い浮かぶだろう。『魔偶の如き齎すもの』(講談社)は、著者の代表作である「刀城言耶シリーズ」の最新中・短編集だ。探偵作家の刀城言耶が青年時代に遭遇した4つの事件は、いずれもホラー要素が濃厚。謎解きの面白さを重視した本格ミステリーでありながら、恐怖シーンが「添え物」になっていないのが頼もしい。
 表題作は、持つものに福をもたらす代わりに、大きな災いを与えるいわくつきの骨董品・魔偶にまつわる中編小説。現在の所有者である宝亀家を訪れた刀城は、そこで不可解な殺人事件に遭遇する。他の収録作では、山と館という著者偏愛の二大モチーフを盛りこんだ「獣家の如き吸うもの」が、ホラーとして出色の出来映えだ。

 『東京の幽霊事件 封印された裏歴史』(KADOKAWA)は、東京で秘かに囁かれてきた「怪談」を手がかりに、失われた土地の記憶を掘り起こした怪奇ノンフィクション。著者の小池壮彦は、オカルト探偵ならぬ「怪奇探偵」として活躍する実力派ルポライターだ。
 女性の入水伝説とともに語られながら、今では跡形もなくなってしまった神田のお玉ヶ池。「白い女」の幽霊がさまよったという中野区の踏切。流れ着く水死者を弔うための卒塔婆が立っていた天王洲。執念の調査によって浮かびあがるのは、東京が繁栄の陰で封印し、忘却してきた死にまつわる記憶だ。著者の名探偵ぶりに感嘆するとともに、東京の町をあらためて歩いてみたくなる。

 そしてもう一冊、ぜひ紹介したいのが小野不由美『営繕かるかや怪異譚 その弐』(KADOKAWA)。古い城下町で起こる、建物にまつわる怪異や障り。それを腕のいい営繕屋・尾端が、修繕によって解決してゆくこのシリーズは、史上初のリフォーム怪談集にして、オカルト探偵ものの新機軸だ。
 壁の向こうから聞こえる三味線の音や、襖の陰に座り込んでいる人影など、日本家屋ならではの構造を生かした怪異シーンが、とにかく恐い。雑誌発表時に読んで震え上がったので、単行本未発売ながら(7月31日発売)紹介してみた次第。そうそう、小野不由美といえばオカルト探偵ものの大傑作『ゴーストハント』シリーズの作者でもあるのだった。