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宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」 「人に頼られたい」気持ちが自己評価向上のカギに

 奇抜なタイトルである。それに惹かれて読んでみた。なるほどと合点がいった。

 著者は現在は大学教授だが、その前は公立精神科病院の児童精神科医、医療少年院などで働いてきたという。そこで驚くことに出会った。「凶悪犯罪に手を染めていた非行少年たち(中学生、高校生)が〝ケーキを切れない〟こと」だ。丸い円を書いて、このケーキを3等分するにはどうするかというと、等分に切れない。これは二つのことを示しているという。彼らに犯罪の反省や被害者への謝罪は生まれない。また、彼らがこれまでどれだけ挫折してきたか、つまりこの社会はいかに生きにくかったかがわかるというのだ。

 非行少年は、特に学校で、はじき飛ばされるような状態にある。本書は、非行少年に欠けていることは何かをわかりやすく説いている。社会復帰してもうまくいかないケースは、「認知機能の弱さ、対人スキルの乏しさ、身体的不器用さ」などが原因となっているとみている。

 さらに現在、学校で行われている子供への支援体制は正しいか否かを検証する章では、「褒める教育」について一考を要すると指摘する。確かに褒めることは小学生には効果があるかもしれない。しかし中学、高校、社会で「誰も褒めてくれない」といったところで問題解決にはならない。

 やる気のない非行少年を劇的に変えたカリキュラムについての記述が興味深い。少年院で、全くやる気のない少年を集めて「認知機能向上を目指したトレーニング」を進めていた折、著者はあまりの無関心さに、やる気を失った。君らで「替わりにやってくれ」といったところ、事態が円滑にすすんだ。私が先生役をやる、明日は僕にやらせてくれといいだしたのである。どの子も持っている、人に頼られたいという気持ちは自己評価向上のかぎになるのである。

 本書が関心を持たれるのは、処方箋が具体的なのと、著者の信念が確固としているからだ。
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 新潮新書・778円=9刷・15万部。7月刊行。「罪を犯す人の中には認知のゆがみがある人がいると知ってほしい」と、担当編集者。=朝日新聞2019年9月21日掲載