前回取り上げた板垣恵介は1991年から28年間にわたって「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で「バキ」シリーズを連載しているわけだが、「週刊少年サンデー」(小学館)にはその上を行くマンガ家がいる。ご存じ“少年サンデーの女王”、高橋留美子だ。
最初の連載『うる星やつら』を始めたのは大学在学中だった1978年のこと。その後、『らんま1/2』『犬夜叉』『境界のRINNE』と続く「サンデー」連載作品はすべてアニメ化され、単行本の累計発行部数は2017年に2億部を突破した。週刊少年誌60年の歴史の中でも、「40年以上も連載を続けているマンガ家」など高橋留美子くらいだろう。今年から「サンデー」で5本目の連載となる『MAO』が始まり、この9月に第1巻が発売された!
7歳のとき両親と事故に遭い、ひとりだけ生き残った黄葉菜花(きばなのか)。中学3年生になって事故現場のシャッター街に足を踏み入れた菜花は大正12年(1923年)にタイムスリップし、陰陽師の少年・摩緒(まお)と出会った。彼はもともと平安時代の陰陽師だったが、猫鬼(びょうき)という妖怪の呪いで、少年の姿のまま900年も生き続けているという。摩緒はなぜか菜花を「妖(あやかし)」と決めつける。それ以来、運動が苦手だった菜花はしばしば人間離れした身体能力を発揮するように――。
第1巻のオビには「『犬夜叉』につづくシリアス怪奇ロマン」とある。『犬夜叉』は1996年から12年間連載された高橋留美子の最長作品。「超人的な力を持つ少年」「中学3年生のヒロイン」「妖怪退治」「タイムスリップ」など、確かに重なるキーワードは多い。「不老不死」ということでは、「人魚」シリーズの湧太(ゆうた)と真魚(まな)を思わせる部分もある。ちなみに「マオ」は中国語で「猫」のこと。猫鬼は文字通り猫の妖怪だし、菜花が異能を発揮するとき瞳孔が猫のように細くなるなど、本作では「猫」が重要なモチーフとなっている。犬の次は猫というわけだろうか。
摩緒は犬夜叉のように陽気ではなく、ひたすらクールな二の線のキャラクターだ。それが陰影のある大正時代によく似合っており、コメディー色はほとんどない。幼かった菜花が事故に遭ったときの「火事の記憶」は何を意味するのか? なぜ摩緒に妖怪だと思われたのか? シャッター街にいる人間が透けて見える理由は? 第1巻には多くの謎が満載されており、続きを読まずにいられなくなってしまう。
なお、菜花がタイムスリップした1923年といえば関東大震災が起きた年。2011年に7歳の菜花が事故に遭った「9月1日正午頃」はまさに関東大震災が起きた日時であり、これが重要な伏線となっているに違いない。