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南北朝期舞台に改革問う 文芸評論家・末國善己さんオススメの3冊

  • 安部龍太郎『蝦夷太平記 十三の海鳴り』(集英社)
  • 葉室麟『星と龍』(朝日新聞出版)
  • 三好昌子『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』(新潮社)

 北条得宗家から蝦夷(えぞ)管領に任じられた安藤氏の内紛が、鎌倉幕府崩壊の発端とされる。安部龍太郎『十三(とさ)の海鳴り』は、この安藤氏の乱が、南北朝の騒乱の前哨戦だったとして歴史を読み替えている。

 安藤季長の息子・季治が、アイヌの毒矢で殺された。奥州と畿内を結ぶ貿易船を指揮していた異母弟の新九郎が調査を始めると、黒幕として季長の従弟・季久が浮かび上がる。ミステリー、海洋冒険小説、陰謀劇、アイヌの歴史などを織り交ぜながら進む展開は、知られざる歴史や最新の研究成果を使って波瀾(はらん)万丈の物語を紡いでいる著者の面目躍如といえる。

 新九郎は、アイヌなど異なる民族とも共生できる国を作ると語った大塔宮に感銘を受ける。この理想を実現するために戦う新九郎を描いた本書が、アイヌを先住民と認め、その文化を尊重すると定めた、いわゆるアイヌ新法が成立した年に刊行された意義は大きい。

 没後も新刊が続々と刊行された葉室麟だが、著者の長編小説が読めるのは、南北朝騒乱を描いた『星と龍』が恐らく最後となる。

 主人公の楠木正成は、長く後醍醐天皇の最大の忠臣とされてきた。これに対し著者は、南宋から伝わった朱子学を学んだ正成は、徳で国を治める「王道の世」を作るため同じ志の天皇に味方したとしている。こうした思想や文化が歴史に与えた影響は、著者にしか書けなかった世界といえる。

 寡兵の正成が徹底したゲリラ戦で、幕府の大軍を翻弄(ほんろう)する中盤のスペクタクルは圧巻だが、幕府が滅びると討幕派内の陰惨な抗争が始まる。本書はここで未完となったが、改革を計画通りに進める天皇と、微調整してより良くしようとする正成の対比が、真の改革とは何かを問い掛けているなど、テーマの一端はうかがえるだろう。

 流血と混乱の末に誕生した室町幕府も、八代将軍足利義政の頃には弱体化していた。三好昌子『幽玄の絵師』は、この時代を幻想小説の手法で切り取っている。

 物語は、義政に仕える絵師の土佐光信が、怪談めいた事件に挑む連作形式になっている。霊や妖が実在することを前提にした特殊設定のミステリーもあれば、そのままホラーになる作品もあり、最後まで着地点が読めない面白さがある。やがて怪異には、敗者の怨念が関係していることが明らかになってくる。この流れに触れると、どのようにすれば、憎悪が生み出す負の連鎖が断ち切れるのかを考えることになるはずだ。=朝日新聞2019年11月10日掲載