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戦争の闇と本質が生々しい・・・ 佐々木譲「抵抗都市」など、文芸評論家・末國善己さんオススメの3冊

  • 佐々木譲『抵抗都市』(集英社)
  • 乾緑郎『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』(新潮文庫)
  • 山田正紀『戦争獣戦争』(東京創元社)

 日露戦争に敗れ、ロシアに統治された日本を舞台にした佐々木譲の『抵抗都市』は、著者が初めて挑んだ歴史改変警察小説である。

 大正五年。都心の川で身元不明の男の死体が見つかった。警視庁の新堂が捜査を始めると、高等警察や反ロシア活動を取り締まる統監府保安課が乗り出してくる。

 宮城前からニコライ堂へ向かう広い道路が整備され、ロシア文化が流入したもう一つの東京の風景も物語の魅力になっており、そのディテールに驚かされるだろう。

 やがて第一次大戦への日本軍の追加派兵をめぐる親露派と反露派の対立など、政治的な陰謀劇が事件の背後にあることが判明する。この構図は、明らかに第二次大戦後、一貫して対米追随を続ける戦後日本に重ねられている。それだけに現代日本が抱えるひずみと問題点が、生々しく感じられる。

 乾緑郎『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』は、人間と区別がつかない機巧人形(オートマタ)が存在する現実とは似て非なる世界を描くシリーズ第三弾。

 一九一八年。社主令嬢で女学生のナオミが、機巧人形とは知らないまま仲良くなった同級生の伊武らと交流しながら成長する前半は、往年の少女小説を思わせる楽しさがある。だが大震災に見舞われ、伊武たちが大陸の傀儡(かいらい)国家・如洲國へ渡る後半になると状況が一変、残酷な事件に直面する。

 技術の発達は人類を幸福にするのか、人間を人間たらしめている要素は何かなど、本書は多彩なテーマを織り込んでいる。その中には、実際に起きた歴史の“闇”をモデルにした事件に巻き込まれる伊武たちを通して、歴史とどのように向き合うべきかとの問い掛けもあるので、考えさせられる。

 山田正紀『戦争獣戦争』は、広島と長崎に原爆が落とされた日に生まれた二頭の戦争獣を軸に、戦後史を読み替える壮大な物語だ。

 戦争獣は、日本統治下の島に暮らす少数民族で、闘争を至上のものと考える異人(ホカヒビト)の神だったが、原爆によって変容した。物語は、それぞれに特殊能力を持つ四人の異人と、朝鮮戦争、ベトナム戦争、核開発を急ぐ北朝鮮など紛争の影で暗躍する謎の双子が織りなす複雑な因縁の糸を描くことで進む。

 人類は高度な文明を築き上げたのに、なぜ戦争が根絶できず、戦禍を拡大させたのか? この難問に圧倒的なイマジネーションで答えた本書は、戦争の本質に切り込んだといえる。難解な用語と抽象的な概念が多く読者を選ぶが、小説が好きならぜひ読んで欲しい。=朝日新聞2020年2月9日掲載