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「ポバティー・サファリ」書評 物見遊山と責任逃れ辛辣に問う

評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月16日
ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り 著者:ダレン・マクガーヴェイ 出版社:集英社 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784087890105
発売⽇: 2019/09/26
サイズ: 19cm/342p

【オーウェル賞(2018年)】イギリス中のありとあらゆる場所に貧窮状態の人たちのコミュニティがある。貧困とその破壊的な影響を当事者として経験した著者が、自身の壮絶な生い立…

ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り [著]ダレン・マクガーヴェイ

 立ち行かない暮らしが注目される時、「ほとんどの人はつかの間の物見遊山をして通り過ぎて」いく。あたかもサファリのように、そこで暮らす人々を安全な距離から眺めるだけなのだ。
 スコットランドの貧困地域で育った著者は、この一冊を「『どうしてそんなに怒っているの?』という問いへのぼくなりの回答」と位置付ける。貧困と暴力が連鎖し、政治から排除される最下層の現実を、ただ眺めている人々を引きずり込むように、五感で知らせる。
 幼少期から暴力の脅威に適応し、無力感に苛まれながらも、愛着を持つ相手が消えてしまうことを恐れ続けてきた。自分にナイフを振り回してくることさえあった母は、若くして死んだ。
 アルコールとドラッグに依存し、ホームレスになった著者。ニュースをつくる人たちは「正確にぼくらを描くことなどできない」。中流階級と下層階級がそれぞれ「固定観念と誇張」を強化し、誤った思い込みの土台を作り続けている。
 当事者にとって貧困とは、何をしても「呑み込まれてしまう流砂」なのに、他の人にとっては「遠くの山腹に暮らす怪物」のまま。安心したいだけなのだ。どこかで起きていることなのだと顔をしかめながら、でも、近くにはない、と心を落ち着ける。左派・右派の問題ではない。いずれも、自分たちが責任から逃れるための筋書きを選び抜いているだけ、と辛辣に問う。
 まず必要なのは、根源的な変化を主張するだけではなく、貧しいコミュニティで育った人間の能力を再構築できる存在。実体験に主張を重ね、こう皮肉るのを忘れない。「こんな話より、死んだ母の話をしたほうがいいだろうか」
 自分の身に起きた現実を辿りながら、この変わらぬ体制を作り出すシステムや放置する人々に怒りを向けていく。区分けして、勝手に逃げるな。まずは、こちらの話を聞け。貧困への無理解を厳しく突き上げてみせた筆圧がとにかく強い。
    ◇
 Darren McGarvey 1984年生まれ。英国出身の作家、コラムニスト、ラッパー。本書が初の著書。