この本を手に取ったのは19歳の時です。名古屋のSKE48から東京のAKB48に移籍して上京、一人暮らしを始めていました。父母と兄との4人家族で暮らしていたころは、何かと世話を焼く母の存在が重くて、顔を合わせればケンカになっていました。でも、母の方がずっと傷ついていることが伝わるからつらかった。
だから、本屋で「母性」というタイトルに引かれたのです。小説を読むことはあまりなかったので、私には、成人式で着物を着るみたいに特別なことだったんですね。周囲に読書をアピールしながら、喫茶店や楽屋で読みました。難しい部分もありましたが、3日ぐらいで読破。いつまでも娘のままでいたい母と、母に愛されたいために、母を守ろうと自分を追い込んでいく女子高生の娘の話です。愛しているのにすれ違い、悲劇が起きてしまう。
泣けた場面は、母が娘の手にハンドクリームを塗ってあげるところ。母は娘に手を払われたらどうしようかと心配しているのに、娘はうれしさに涙をこらえている。それぞれが違うことを考えているのです。私も、当時、すごくママを愛しているのに、伝わっていないとずっと思っていたんです。だから、帰省した時に「読んでほしい」と、この本を渡しました。次に会った時、母が涙ぐんで「ごめんね」と謝るのです。「えっ? なんで?」と衝撃でしたが、どうしても理由を聞けませんでした。私も、将来、母親になったら、またこの本を読んでみたいですね。
『母性』をきっかけに、『聖母』(秋吉理香子)や『人魚の眠る家』(東野圭吾)など、母親が題材になっている本が好きになりました。(聞き手・山根由起子 写真・関口達朗)=朝日新聞2020年1月29日掲載